中国との国際交流(会議情報交換・施設見学)報告
~臨床工学技士制度及び血液浄化技術に関する交流
(社)日本臨床工学技士会 国際交流委員会委員長 山下 芳久
(社)日本臨床工学技士会 副会長 那須野 修一
Ⅰ.はじめに
現在の中国は、透析患者の急増に伴い透析医療の発展に目を見張るものがあり、透析室における技士の役割は日ごとに重要になってきている。しかし、技士には資格制度も無ければ、中国国内で統一された組織としての技士会もまだありません。
一方最近では、北京ならびに上海において医学会の下で、血液浄化関係の技士が集まり、交流会を行なったり、討議したりする機会が徐々に増えており、技士個人の意識も高まってきております。
そこで、公的な立場として、アジアにおいて唯一の技士会が存在している日本臨床工学技士会との交流をしていくことで、今後の中国での技士の地位向上、資格法制化及び技士会創設を達成したいという意図の下、中国の北京地区技士会(北京医学会血液浄化技術専業学組)と上海地区技士会(上海医学会臨床工程分会)からの要請を受けて、2010年9月13日~9月17日までの5日間、那須野副会長と二人で中国に行ってきました。
Ⅱ.瑞金医院(上海)見学
上海で最も大きく最先端の医療が行われている病院であり、透析室は60床で毎日2クール、270名の透析患者の透析療法を行っている。透析スタッフは、医師6名、看護師24名、技士2名であった。
昨年に大きな感染事故が発生したため上海地域では特に感染に関して厳しくなっており、この上海病院でも様々な対策がなされていた。それは、透析室の出入り口にスタッフが常駐して出入りする人の制限や入室者を厳しくチェックをしたり、透析室が完全に3つに分かれており、感染患者と非感染患者を分けたり、感染の種類によっても分けて透析療法を行い、透析装置も感染によって完全に分けて使用していた。
また、ゲストルームやVIPルームも用意されていた。日本のように臨床検査が費用やその他の理由によりあまりできないので、定期検査などはなく、導入基準においても明確には決められてはいないようであった。
Ⅲ.日中友好医院(北京)見学
中国の衛生部(日本の厚生労働省)直属の病院でJICAにより建てられた病院であり、血液浄化センターとしては北京市内で2番目に大きく、透析装置は85台で毎日2クール、270名の透析患者の透析療法を行っている。透析スタッフは、医師10名、看護師32名、技士3名であった。透析室は、ほぼワンフロアーであり看護師が主に透析療法を行っていた。
この病院のスタッフは医師も看護師も数名は日本へ透析研修に行った経験があり、看護師においては北京市内でも透析研修制度があり、ある程度の透析経験を積むとその研修を受講して認定を受けているそうである。また、この日中友好医院血液浄化センターで今年から研究会を開始し、年に1回勉強会を行なうとのことであった。
Ⅳ.友誼医院(北京)見学
北京市内で最も大きな血液浄化センターを持つ病院である。透析室は、泌尿器科の透析装置26台と腎臓内科の透析装置90台との2つに分かれているが合わせて116台あり、病棟透析用5台を全て合計すると透析装置は121台もある。そして、毎日2クール行い、透析患者は300名以上とのことである。
透析スタッフは、腎臓内科の透析室で医師6名、看護師35名、技士3名であった。ここでも透析室は、ほぼワンフロアーであり看護師が主に透析療法を行っていて、とにかく透析室が大きい。技士は、透析装置や機器を運転管理すること、透析液を作成管理すること、水質・透析液清浄化を管理することなどが主な業務となっている。透析液の濃度管理は伝導度で行なっていた。
Ⅴ.上海医学会臨床工程分会との交流会
日本における臨床工学技士の現状を那須野福会長が発表し、次に中国の上海における透析関連の技士の現状を上海医学会臨床工程分会の会長が発表して質疑・ディスカッションが行なわれた。
臨床工学技士の定数、業務と役割、病院内の機器管理の状況、日常点検の内容と記録・保管、点検修理におけるメーカと臨床工学技士の割合、水質管理と透析液清浄化など、数多くの質疑と有意義なディスカッションが行なわれた。
また、上海には中国で唯一の臨床工学技士と同様なカリキュラムがある大学附属の専門学校があり、毎年卒業生を出しているとのことであった。
Ⅵ.北京医学会血液浄化技術専業学組との交流会
上海と同じく、日本における臨床工学技士の現状を那須野福会長が発表し、次に中国の北京における透析療法と技士の現状を北京医学会血液浄化技術専業学組の会長が発表して質疑・ディスカッションが行なわれた。
北京市内の透析施設数は128施設、透析装置台数は2001台、透析患者数は24019名、技士数は70名とのことである。技士の前職は病院修理技士、病院設備課技士、男の看護師などであり、技士の学歴は大学卒、専門大学卒、中等専門学校などであった。
技士の組織としては政府公認組織である北京医学学会血液浄化技術専門学会、北京生物医学工程学会血液透析専業委員会技師会などがある。現在の問題点は、資格が無いこと、全国組織が無いこと、技士数を70名と言ったが透析専門の技士はその中でも少ないこと、技士の経歴が様々なこと、病院内での地位が最も低いことなどが挙げられ、ここでも熱いディスカッションが有意義に行なわれた。
ちょうど日本の30年前を思い起こされる内容であった。
Ⅶ.中国における血液浄化の現状
中国では中国全土での透析療法関係の実態調査は十分に実施されていないため、ここでは、筆者が集めたある程度の結果を示すのみにて、参考としてお読み頂きたい。
中国における全透析施設数は、約3000施設であり、透析室のベッド数は一般的に10~20床くらいの施設が多く、一部に100床を超える施設がある。透析システムは、水処理装置と個人用透析装置からなり、水処理装置はRO装置であるが、中国の水は水質が非常に悪いため、ダブルRO装置が増えてきている。透析装置台数は約28000台で、メーカ別の割合としては、FCM:34%、GAM:19%、NK:19%、BUN:11%、NIPRO:7%、TOR:3%、その他7%である。患者数は約10万人で、透析スタッフ数は、医師が1500人、看護師が5200人、技士が1000人である。
実際に行なっている血液浄化療法の種類は、血液透析を主として、血液濾過、血液濾過透析(オンライン・オフライン)、無酢酸透析、処方透析、腹膜透析などの各種透析療法と血漿交換、血液吸着や持続的血液浄化療法なども行なっており、ほぼ全般的に血液浄化療法を行なっているようである。
使用しているダイアライザの種類も輸入により、ほぼ全種類が使用できるようである。ダイアライザのリユース状況は、大都市では殆んど無いが、内陸の地方病院と血液濾過器において多いようである。現在の中国での保険制度は、都会医療保険と新農村合作医療保険を合わせたもので各個人の自己負担額はそれぞれ異なる。
技士会については、北京と上海の2大都市に数年前にそれぞれができて交流をしている。技士のみで組織したのではなく、北京と上海の腎臓学会の下部組織として位置し、医師や学会からも認められた組織となっている。正式名称は、北京が「北京医学会血液浄化技術専業学組」、上海が「上海医学会臨床工程分会」である。また、中国の技士の正式名称は、「工程士」である。
Ⅷ.おわりに
今回初めて中国を訪問し、2大都市にできた技士会との交流と一部の透析室を見学してきた。一見は日本と変わらない感じもしたが、実は大きく異なっていた。この国は現在、様々な部分での格差社会が存在するものと考えられた。しかし、その中で出会ってきた技士達は、この国を代表するリーダー達であり、話しているうちに何とかしたいという熱い気持ちを感じるようになっていった。
そして、社団法人日本臨床工学技士会は、中国技士会より今後も交流を強く希望され、資格法制化及び技士会設立への協力と血液浄化技術向上への協力を依頼された。今回の訪問が双方の技士会にとって良いスタートとなり、今後においても好い交流が進むように努力したいと考える。