マレーシア訪問記2026

国際交流委員 渡邊いちこ

① スルタン・アブドゥル・アジズ・シャー病院(HSAAS)視察

2026年8月26日

マレーシア訪問の初日、私たちが最初に足を運んだのは、プトラ・マレーシア大学(UPM)が運営する教育病院、スルタン・アブドゥル・アジズ・シャー病院(HSAAS)です。案内してくださったのは、腎臓内科の専門医であり、病院内で渉外の役割も担うワン・ズル・ハイカル・ハフィズ医師です。今回の訪問は、臨床工学技士で、マレーシアで糖尿病関連事業を展開するSecond Heart社のCEOでもある石田さんの調整で実現しました。

ミーティングのテーマは「糖尿病マネジメントと臨床工学における連携」。まず驚いたのは、マレーシアでは人口の30〜40%もの方が糖尿病を抱えているという数字です。食生活の違いが背景にあるのではと話題になりました。腎不全や脳卒中、足の切断につながる神経障害など、合併症の重さも共通の課題として挙がりました。

話の中心になったのは、両国の「臨床工学」の違いです。マレーシアのバイオメディカルエンジニアは、主に機器の保守や校正が中心で、患者さんに直接関わる機会は多くないとのこと。この違いをお互いに知ることができたのは、とても大きな収穫でした。

病院見学では、透析クリニックや整形外科クリニック、リハビリテーションセンターも見せていただきました。最新のリハビリ機器、社会復帰を目指す運転シミュレーターなど、充実した設備に驚かされました。ちなみにこの病院、透析クリニックの裏にいけすがあり、透析の排水をリサイクル利用して魚を飼育していました。学ぶことばかりの、実り多い視察となりました。

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② クアラルンプール病院(HKL)救急部視察

2026年8月26日

同じ日の午後、今度はクアラルンプール病院(HKL)の救急部を訪ねました。1870年に開設され、150年以上の歴史を持つこの病院は、世界でも有数の規模を誇る国立病院です。案内してくださったのは、救急部のアザマニ・イドロス医師。マレーシア国王の侍医も務めた方で、災害医療にも詳しく、とても温かい人柄が印象に残りました。この訪問は、当会の国際交流委員・平山さんが調整してくれたおかげで実現しました。

まず案内していただいたのは、患者さんの状態を見極める「トリアージ」の仕組みです。まず一次トリアージで状態を確認し、落ち着いていれば二次トリアージへ。重症の方のための蘇生エリアも2か所用意されていました。この救急部では、心臓発作や脳卒中といった内科的な急病はもちろん、事故によるけが、さらには家庭内暴力、児童虐待といった「社会的な救急」にも対応しているとのことでした。専用の相談室があり、警察とも連携しながら被害者を支えているそうです。

現在建設中の新病棟には、化学物質や放射線による事故に備えた除染エリア、陰圧になっていて感染症にも使える喘息用のスペースなど、備えの幅広さにも目を見張りました。この病院は国営で、診察から検査まで含めて自己負担はわずか1リンギット(日本円で40円程度)。国王から一般の方まで、あらゆる人がこの病院を利用するそうです。1日に受け入れる患者数は400〜500人にものぼります。医療従事者の人手不足は大きな悩みだそうで、「ここはまるで戦場のようだ」というイドロス医師の言葉が印象的でした。カルテなどはまだ手書きが中心ですが、建設中の新しい病棟は完全にデジタル化される予定とのことです。

見学の最後には、イドロス医師のオフィスに飾られた灯台の絵を見せていただきました。「嵐の中でも光を送り続け、進むべき方向を示すのがリーダーの役目」というイドロス医師の言葉に、国は違っても医療現場を支える思いは同じなのだと感じました。この病院では毎年、医師が詩を朗読する「ヒューマニティ・ポエトリー・ナイト」という行事もあるそうで、厳しい現場の中でも心を癒す時間を大切にする姿勢が心に残りました。

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③ ICIBEL2026 参加報告

2026年8月27日〜28日

クアラルンプール・コンベンションセンター(KLCC)で開かれた国際会議「ICIBEL2026(第6回 生体医工学・生命科学イノベーション国際会議)」への参加です。マラヤ大学の医療工学イノベーションセンター(CIME)が主催し、マレーシア医用生体工学会(MSMBE)やマレーシア医療機器庁(MDA)などが共催、国際医用生体工学連合(IFMBE)の後援のもとで開かれました。今年のテーマは「イノベーションから実装へ」。マレーシアやインドネシア、インド、日本など各国から28件の研究発表があり、AIを使った医療機器の規制やスマートなCPR訓練機器、携帯型人工呼吸器の話など、幅広いテーマが並びました。

プログラムでは、私(渡邊)が「臨床工学フォーラム」にパネリストとして登壇する機会をいただきました。マラヤ大学附属病院の生体医工学部門長やマレーシア保健省の担当者とともに、各国の臨床工学技士やバイオメディカルエンジニアの役割や、医療機器の保守管理と医療技術評価(HTA)との関わりについて意見を交わしました。日本の制度を紹介しながら、マレーシアの取り組みとの違いを比べる、良い機会になりました。

また、当会の肥田理事長が「医療機器を超える臨床工学」と題した招待講演を行いました。日本の臨床工学技士制度がこれまで生命維持装置を中心に発展してきた歴史を振り返りながら、これからはAIやロボティクス、在宅医療、災害対応といった新しい課題にどう向き合っていくかを語る内容でした。「日本のやり方をそのまま広めるのではなく、マレーシアやアジアの仲間たちと一緒に、次の時代の臨床工学の形を作っていきたい」という肥田理事長のメッセージには、会場からも大きくうなずく姿が見られました。

初日の夜には、ネットワーキング・感謝レセプションが開催され、ICIBEL2026の大会長を務めたファティマ・イブラヒム教授や運営委員会の皆さんとおいしい食事を囲みながら、これまでの協力への感謝を伝えるとともに、次につながる交流の時間となりました。

会議全体を通じて感じたのは、東南アジアの国々で、臨床工学と医療技術評価を組み合わせた人材育成の取り組みが、想像以上のスピードで進んでいるということです。特にマレーシア保健省が進める、医療機器を保守する人材の国全体での育成の仕組みは、日本の臨床工学技士制度と比べてみても学ぶところが多いと感じました。

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おわりに

今回のマレーシア訪問では、2つの病院を視察し、国際学会に参加させていただいたうえ、パネリストとして登壇する貴重な機会までいただき、大変充実した3日間となりました。各国の医療制度や病院の設備、運営の仕組み、そして日々の業務内容や今後の展望を知ることができたのは、何ものにも代えがたい経験です。こうした学びの一つひとつが、これからの日本の臨床工学のさらなる発展につながっていくと、強く感じています。

日本の臨床工学技士には、これからも自分たちの知識や経験を世界に向けて発信していってほしいと思います。そして同時に、世界の国々が積み重ねてきた工夫や取り組みを、私たちも積極的に取り入れ、学んでいく姿勢を大切にしていきたいと思います。

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