AAMI Exchange 2019および米国病院見学ツアーの参加報告書

亀田総合病院ME室

森 信洋

1.はじめに

日本臨床工学技士会は,AAMI Exchange 20191)および米国病院見学ツアーを企画した.この企画で初めて国際学会へ参加した私は,口頭発表を挑むこととなった.この報告は,米国病院の見学に対する所感を伝えるとともに国際学会での発表に着目して報告する.

2.病院見学

概要

米国で見学した病院はクリーブランド・クリニック2)である.この病院はオハイオ州クリーブランド市に本拠地を置いており,勤務者は約4万人を雇用していた.また,この病院は2018年-2019年のBest Hospital3)において総合で第2位を受賞し,専門の心臓では第1位を誇っていた.私は病院の規模の大きさと手術件数の多さに圧倒されたとともに,この病院は医療情報システムの開発・運用を確立しており病院経営戦略を徹底している印象だった.図1に示したように病院の壁には,”Patient First”を描いており,シンプルで強力なメッセージを病院から患者へ送っていた.このメッセージに込める想いは,医師,看護師,コメディカル,事務職員に対する意識の最大化を図っているようにも感じた.国民性かもしれないが清掃職員も明るく,自らの業務に誇りを持って働いていることから病院全体で良い循環を回していると感じた.

イノベーションセンター

この病院で最も印象的だったのは,イノベーションセンターを設置していたことである.このセンターはスタートアップ企業88社と提携して,年間のアイデア数は300件を超えており,今までに600件のライセンスと600件の製品化に結び付けている(図2).圧巻なのはセンター内にプレス機を設置しており,試作機を迅速に構築できる環境が整備されていることだ.日本でも医工連携やアイデアボックスといった試みはあるものの,このセンターを見せられては勝負にならないと感じた.この病院は政府と企業との連携を強化しており,助成金や人材を投入する規模が日本と違い過ぎていた.製品化までの過程は徹底した合理化を図っており,製品はアイデアの創出,試作機の作成,現場での運用,問題点の洗い出し,特許の出願,および製品化までを一連の戦略システムで構築していた.

3.AAMIでの発表

日本医療機器学会を中心に発表してきた私は,AAMIの存在を知っていた.しかし,私がAAMIで発表するとは思ってもいなかった.また,私は医療機器のシステム開発と情報分析の研究をしてきたが,IoMTという言葉も知らなかった.IoMT4)はInternet of Things(モノのインターネット)を派生した造語であり,医療機器とヘルスケアのITシステムをつなげる概念であることを,このAAMIでの発表を通して知ることとなった.

図3は発表会場の配置図を示した.今回の発表だけかもしれないが,本邦と米国での発表の違いは,会場の中央に発表者を配置させられることであった.スクリーンは発表者と水平であり,発表者が直接スライドを見ることは困難であった.この対策には,パワーポイントのスライドショーからレーザーポインターに変更することで対応した(図4).

発表後の質疑応答では,

・セキュリティ

・開発コスト

・人工知能(AI)の導入

・ヘッドマウントディスプレイの今後の展開

・米国でのシステム開発と商品化の可能性

などの質問を受けた.また,私は質疑応答の時間だけではなく,発表後も多くのコメントを受けた.これもまた,海外の国民性かもしれないが,聞きたいことは徹底して聞いてくる.私は,「I’m sorry. I cannot speak English.」と言い続けても,スマートフォンの翻訳ソフトを使用してでも聞いてくる国民性には,改めて感心させられた.

 

4.おわりに

今回の出張を通して私は,米国のClinical Engineeringと日本の臨床工学技士での制度の違いを肌で感じることができた.私の率直な感想は,米国のClinical Engineeringの在り方をそのまま日本の臨床工学技士の業務に持ち帰ることができないと言うことである.特に臨床工学技士による医療機器の操作はSuper Userと言われ,かなり特殊に感じた.また,臨床工学技士の中央管理は米国とは異なり独自の文化を持っている.しかしながら,今回の出張は,人種や価値観の違いによる多様性を肌で感じ,今後,私が仕事をするうえで大きな財産になったことは間違いない.今後も私は仕事と研究を両立しながら,新たな臨床工学技士の可能性を模索し続けていきたいと思う.

 

今回の出張は良い出会いを持った.日本臨床工学技士会の青木 郁香さんは凛としており,とても知的な女性であると思った.群馬パース大学の吉岡 淳さんは懐が大きく,国際交流委員会の委員長は適任であると感じた.麻生飯塚病院の井桁 洋貴さんには,私の質疑応答の対応や病院見学の通訳をしていただき,こんなにすごい人が臨床工学技士でいるのかと本当に思った.コロラド州立大学病院の長澤 智一さんには,初めのweb会議で誤解があったかもしれなく,会うときは気まずかったが,すぐに長澤さんの人柄に溶け込めた.長澤さんは,兄貴分みたいな人でみんなこの人をすぐに好きになると思う.人生を変えるのは「人,本,旅」と言うが,今回の出張は本当に良い出会いがあり,参加者すべての人に感謝をしたい.

最後に私は,AAMIでの発表の機会とともに,ずっとそばで見守っていてくださった当院の高倉さんに感謝をしてこの報告を終わります.

 

参考文献

1)https://www.aami.org/index.aspx

2)https://health.usnews.com/best-hospitals/rankings

3)https://my.clevelandclinic.org/

4)https://iomt.or.jp/