ただ“行ってみたい”から始まった私の海外視察研修
九州大学病院 臨床工学部門 梅崎 純実
私はこれまで海外経験も浅く、これといった研究に打ち込んできたわけでもなく、英語力も中学生レベル。そんな私がただ『行ってみたい』と強く惹かれて、今回の海外視察研修に参加させていただきました。
この記事では、等身大で感じたことや体験したことを、ありのままに綴りたいと思います。
もし、興味はあるけれど、自分なんかが参加していいのだろうか、と少しでも感じている方がいたら、私の体験記が背中を押すきっかけになれば嬉しいです。
~参加動機~
私の職場は大学病院ということもあり、様々な国籍のスタッフを受け入れる機会が多く、時々話しかけられることもありましたが、英語での挨拶の仕方すら分からなかった私は、話しかけないでくださいオーラ全開で、無意識に壁を作っていたように思います。
そんな自分に対して、どこかもどかしさやコンプレックスを感じていました。
転機となったのは、昨年の初めて海外旅行。思い切ってなんとなく話してみた英語が通じ、そのちょっとした成功体験がとても嬉しく、振り返ればそれをきっかけに英語でコミュニケーションを取ることへの興味が芽生えたように思います。
臨床工学技士として6年目を迎え、様々な分野の業務に携わらせていただいているという、とても恵まれた環境で業務を行っておりますが、ふと自分は今後何を極めていきたいのだろうか、とジェネラリストからスペシャリストを目指していきたいと思うようになりました。
そんな時、同僚との何気ない会話の中で、ある先輩が海外研修に興味を持っているらしい、という話を耳にしました。これまでの私なら流してしまっていたかもしれません。ですが、その時の私は漠然と海外に関する興味を持っていたため、気がつけばその研修について夢中で調べていました。
『英語への興味』と『これまで頑張ってきた臨床の経験』。これらを分けて考えていた私にとって、それらが融合した研修があるなんて、とても魅力的に映り、すぐに行きたい!と思いました。
~病院見学~
初めての海外の病院見学…。日本とどう違うんだろう、やっぱり文化も人種も違うから全然異なるのだろうか、そうはいっても同じ病院という施設であることに変わりはないから案外大差ないのかもしれない。そんなことより、もちろん全部英語だし、そもそも周りのみんなについていくだけで精一杯なのでは。そんな思いが車で向かう道中、頭の中をぐるぐる巡っていました。
現地に到着すると、担当してくださる病院スタッフの方が早速玄関で出迎えてくださり、とりあえず、みんなが挨拶するのを見よう見まねでやってみました。握手して、自己紹介として、SUMI, nice to meet you.って言って、、、それだけなのに、なんだか楽しい!という感情が湧いてきました。
中へ案内してもらい、他のスタッフの方々にも、先程と同じように挨拶して、ということを繰り返すうちに、少しずつできるようになっている自分がいて、そういう小さな変化も楽しく、自然とずっと明るい表情になっていたような気がします。
いざ、病院説明が始まり、先方が話す内容を頑張って集中して聞いてみたものの、なかなか内容が入ってこず、どうしよう、分からない、私だけ取り残されている、と不安に思っていると、長澤さんがそんな私の様子を察してくださり、要点を日本語で適宜補足しながらサポートしてくださったおかげで、なんとか全体像を把握することができました。
災害を教訓とした病院設備や熱傷センター、手術室、病棟、など様々なエリアを見学し、各部署でそれぞれ担当のスタッフが丁寧に説明してくださいました。
とても素敵だなと感じたのは、どのスタッフもWelcome!と笑顔で迎えてくれたことでした。日本でも、病院に学生や見学者が訪れる機会は多々ありますが、基本的には軽く会釈する程度だったり、依頼された説明を淡々と行うだけだったり。
これも文化の違いかもしれませんが、スタッフの皆さんがフレンドリーでとても明るく、見学そのものを歓迎してくださっている雰囲気で、楽しく仕事をされている様子が伝わってきました。
また、見学していく中で、日本の病院では一般的な大部屋がアメリカにはなく、プライバシーを重視する文化の実態を肌で感じることもできました。これまで当たり前だと思っていたことが、国が違えば全く異なる。そんな発見の連続で、もっと深く知りたいという気持ちが湧いてきました。
お昼休憩には、なんとランチまで用意していただき、そのおもてなしに感動しながら、ランチの箱を開けようとすると長澤さんから、これがアメリカの通常やから驚かんといてな、と一言。開けてみると、ビッグサイズなハンバーガーとビッグサイズなクッキー、そしてポテトチップス一袋。予防線を張っていただいていたにも関わらず、しっかり驚きました。
ランチが終わる頃には、病院のロゴ入りTシャツやニューオリンズのお祭りグッズであるビーズのネックレスなど、数々のお土産をいただき、至れり尽くせりのおもてなしにとてもありがたい気持ちでいっぱいになりました。
日本に帰った今、このビーズをデスクに飾って、この時の気持ちを忘れないようにしたいと思います。
また、この病院とは系統の違う退役軍人病院の見学もさせていただきました。日本にはそういった病院はないため、そもそもそのような軍人に対するリスペクトの精神からくる病院の存在自体に驚きました。また、建設中の病棟も見せていただき、患者さんがおられない状態のため、よりじっくり病室の細部まで見ることができました。
病院見学中、恥ずかしながらそもそも自分の働く病院はどのようになっていただろうか、と振り返る機会が多々あり、普段は疑問にさえ思わなかったことに気付かされ、帰国後はもっと主体的に学び直したいという意欲が高まりました。
~AAMI~
会場に足を踏み入れた瞬間、これが国際学会か!とまるで田舎者が都会に出てきたときのようにキョロキョロと周囲を見渡してしまいました。
さすがジャズ発祥の街ニューオリンズ。オープニングセレモニーでは生演奏の中テープカットが行われ、その華やかでエネルギッシュな幕開けに心が躍りました。会場内には初めて見るような海外メーカーが多数並んでおり、時折日本のメーカーを見つけては、勝手に少し嬉しくなんだか誇らしげな気持ちになったのを覚えています。
同行してくださった国際交流委員会のお二人がお知り合いの方々にご挨拶される際に、私もご一緒させていただき、もちろんのことながら英語で流暢にコミュニケーションを取られている姿を目の当たりにし、その姿に心から憧れを抱きました。私はまだまだ英語に自信がなく、言葉を選んで話すだけで精一杯。でも目の前で交わされる自然なやりとりが強く印象に残りました。
そして、チケットで引き換えたドリンクを片手に展示ブースを回っていると、各ブースでいただけるノベルティの豪華さに驚きました。
Keynoteという基調講演では、照明や音楽の演出もあり、会場全体にいるだけでワクワクするような気持になりました。
発表スタイルも日本と大きく異なり、登壇者がステージ上を歩きながら、スクリーンに映されたキーワードや写真を使って、聞き手に語りかけるようにプレゼンを進めていく形式です。プレゼンテーションもひとつの魅せる技術なのだと実感しました。
ランチタイムは、ビッフェ形式。会場内の円形テーブルに相席するスタイルで、座った瞬間『どこから来たの?』と声をかけてもらいました。自然と始まる会話の中で、お互いの出身地や職種、関心のある分野などを紹介し合い、ランチタイムをご一緒するという短いひと時ではあったけれどSNSを交換したり、記念写真を撮ったり。そういった気軽な交流ができる雰囲気も素敵だなと思いました。
いくつかのセッションの聴講する中で、長澤さんからこれまでに日本の臨床工学技士が、ここで座長を務め、発表も行ったことがあると教えていただきました。そのとき、ただの参加者として座っていた自分の頭の中に、実際に日本の臨床工学技士が壇上に立って発表している姿がリアルに浮かび、ホームページでそうした記事を拝見したことがありましたが、この会場でそれを想像すると、ずっと身近に感じられ、より鮮明にイメージできました。
~様々な出会い~
今回の海外視察研修では、学会や見学だけでなく、『人との出会い』も本当に大きな財産になりました。国内にいるだけでは中々出会えないような方々と濃い時間を共有させていただき、視野が広がる瞬間が何度もありました。
今回、もう一名の参加者である矢吹さんとは、同室で約1週間を共にしました。矢吹さんは海外経験も豊富で、出発前からたくさんノウハウなど教えてくださり、感謝しかありません。
私は専門学校卒業後、すぐ臨床に入った一方で、矢吹さんは大学院、博士課程まで進まれ、研究や多様な活動に取り組まれている方で、同じ臨床工学技士でありながら、大きくキャリアの異なる方でした。最初は緊張しかありませんでしたが、同世代女子同士ということで、あっという間に打ち解け、経歴が違うからこそお互いがより一層の興味を持ち、刺激を受け合う毎日。たくさんの学びがあり、会話が尽きることはありませんでした。
また、学会会場では医療情報を専門とする先生や、上級研究員としてご活躍されている看護師の方々とも出会い、ジャズの街で一緒にお酒を交わしながら、仕事の話、人生の話を聞かせていただきました。そんな何気ないひと時も、非常に貴重な経験となり、分野やキャリアや年齢の異なる方々と気軽に話し合える場があり、『国際学会って、とても敷居が高いもの』というイメージが変わった瞬間でした。
また、今回同行してくださった日本臨床工学技士会 国際交流委員会の長澤様、平山様にはこの場を借りて心より感謝申し上げます。
渡航から帰国まで、たくさんサポートしていただき、無事にこの研修に参加することができ、非常に実り多い経験をすることができました。
お二人の経歴や今携わっておられる仕事をお聞きし、同じ臨床工学技士免許を取得したというスタート地点は皆同じだけれど、それぞれの選択、行動次第で、こんなにも大きく異なり様々な道があるということを教えていただいたような気がいたします。
長澤さんとは乗り継ぎの空港で初めてお会いし、とても気さくなお人柄のおかげで、私の緊張が和らぐのにそう時間はかかりませんでした。
私の参加動機について話した時にも、たくさんまっすぐな肯定的なお言葉をいただき、実際にアメリカで活躍されている方からの一言一言はとても心に響き、自信につながりました。
ですが、色々お話させていただいた中で『なりたいものになったらいい』というとてもシンプルでありながら核心をついた言葉が印象に残っています。その瞬間、自分の中の迷いやモヤモヤがすっと晴れていくような気持ちがしました。
知識や経験を重ねてくると、ついリスクやメリット・デメリット、年齢、金銭面、周りからの評価など、様々な要素が頭をよぎるようになります。それはとても大切なことですが、そういった事柄を一旦横に置いて結局のところ自分がどうなりたいか、という原点に立ち返る重要さを改めて感じました。
帰国後、後輩から『どうでしたか?』と感想を聞かれました。
その時に『ここしか知らずにここにいるのと、広い世界を知った上でここを選んでいるのとでは、なんだか違う気がする』と答えている自分がいました。
とはいえ、私もまだまだ井の中の蛙です。ですが、大海を少しだけでも知ることができ、その楽しさを知った今、さらに視野を広げていきたいです。
また、平山さんからは国際交流委員会の活動や、これまでに取り組んでこられた研究のお話をじっくり聞くことができました。
飛行機の乗り継ぎの待ち時間、移動の車中、食事の時間―――――
普段はなかなかゆっくり話せない方と、こうした『何気ない時間』を共有できるのも海外研修ならではの魅力だと思います。
数か月後には別の国での発表を控えておられるとお聞きし、アメリカにとどまらず、世界中と繋がっている臨床工学技士の可能性を感じました。
~ニューオリンズの街を歩いて~
もちろん病院見学や学会だけではなく、しっかり観光も楽しませていただきました。
アメリカといえば、治安面で少し不安を感じる方も多いと思います。また私自身、初心者が個人で観光するには少しハードルが高いように感じていましたが、国際交流委員会のお二人が手助けしてくださり、現地の街並みやジャズの音色を楽しんだり、地域特有の料理を味わったり。本当に楽しかったです!!これも海外視察研修の大きな魅力の一つです!!
~さいごに~
今回の研修では年次休暇を使い、かつ自費での参加でした。正直、金銭面の負担はありましたが、だからこそ、少しでも多く吸収し、今後の自分の糧になるものにしようという思いも一層強くなったと思います。また、日本臨床工学技士会がAAMI学会参加費の半分をサポートしてくださいます。
今回、私は運がいいことに偶然同僚との会話でこの研修のことを知り、参加に至りましたが、もしその話題に出会っていなければ、この経験はなかったかもしれません。
情報を知っているか知らないか。それが大きな分かれ道になることもあるのだと実感しました。
ではその情報をどう獲得するのか、それは自分から取りに行くしかありません。
ですが、そのきっかけは案外身近なところにたくさん転がっています。
それを見逃すのか、小さなきっかけとしてつかみ取り、そこを糸口にして自分のものにしていくのか。すべては自分の行動次第、最初の一歩を踏み出せるかどうか次第だと学んだ研修でした。
出発前『何をしに行くの?』と周囲からそう尋ねられることもありました。そのときの私は、大した答えを持ち合わせておらず、その場しのぎの曖昧な返答をしていたように思います。
ですが、今なら胸を張って言うことができます。
今まで一歩踏み出さなければ見えなかったであろう景色をたくさん見ることができた。新しい出会いがたくさんあり、多くの刺激もらった。この経験はきっとこれからの私をいい方向に導いてくれる。
もし、少しでも迷っているならば参加してほしいです。たとえ海外を視野に入れていない方であっても、広い世界を知ることで改めて日本の臨床工学技士の素晴らしさに気付くことができるはずです。
楽しかった思い出だけで終わらせず、学びとして得られたこと、また出会った方々とのご縁を大切にしながら、まずは目の前の仕事に誇りを持って取り組んでいきたいと思います。
今回の海外視察研修を通して出会えたすべての皆様に心から感謝申し上げます。