岡⼭⼤学病院 臨床⼯学部
平⼭隆浩

医学教育強化プロジェクト(Project for Enhancement of Medical Education:PEME)は、ミャンマーにおける医科⼤学の研究・臨床技術・教育に係る能⼒強化のための技術協⼒プロジェクトである。これは JICA のサポートにより、ミャンマーの医師を3ヶ⽉受け⼊れ、その後⽇本での研修を終えた研修⽣と現地でセミナーを⾏う。岡⼭⼤学は救急医学分野を担っている。今回我々はマンダレー医科⼤学とヤンゴン第⼀医科⼤学にてセミナーを⾏なった。

6/19(⽉)

6/19(⽉)にマンダレーに到着。会場の準備を⾏なった。
Dr.TK により準備していただいた GE Healthcare 社製の Engstom Carestation
の動作確認および会場設営を⾏なった。装置はもともと準備される予定だった.

機器が故障したため急遽違うものが⼿配された。動作点検を⾏う際に電源のプ
ラグの接触不良、圧縮空気をつくるためのコンプレッサーの配管受けが呼吸器
のものと合わないことが判明した。当⽇までの修理をエンジニアに依頼した。

6/20(⽕)



6/20(⽕)セミナー当⽇。前⽇の問題点を確認するために動作確認を⾏なった。
問題は解決されていたが、新たに酸素ボンベのバルブ不良からガスが漏れ容量
がなくなるという問題が発覚した。直ちに新たなボンベを⼿配いただきセミナ
ー開始前までに到着、無事開始することができた。
今回は“Hands-on session on Respiratory Ventilator”と題して、⼈⼯呼吸管理に必
要な呼吸アセスメント⽅法をスライドで説明した。次に scenario ベースで患者
状態に合わせてどのように設定を⾏うか、⼈⼯呼吸器を操作しながらハンズオ
ンレクチャーを⾏なった。ハンズオンの時間は 30 分ずつ2グループで⾏なった。
参加者は⿇酔科、整形外科のマスター1年⽣それぞれ 20 名ずつであった。今
回⾃分が⼀番伝えたかったことは、なんとか理解していただけたと感じたが、受
講者のほとんどは⼈⼯呼吸器にさわるのも初めてで、受講者の専⾨性や実⼒を
把握できていなかったため、説明に時間をかけすぎてしまい時間配分がうまく
いかず、⼈⼯呼吸器に触れる時間があまり取れなかったという反省点があった。

医師は CVC ハンズオン、災害トリアージの机上訓練を⾏った。
災害トリアージ

6/21(⽔)


6/21(⽔)ヤンゴン第⼀医科⼤学に会場を移して同セミナーを⾏なった。ここ
では Philips 社製の Trilogy 202 を準備していただいた。動作確認の際に酸素ボ
ンベのレギュレータの緩みからガス漏れが発覚したが、増し締めすることによ
り解決した。参加者は救急科のマスターコース1年⽣、2年⽣ 20 名ずつの計 40
名であった。マンダレーでの反省を⽣かし、ハンズオンの時間を 45 分ずつ2グ
ループに変更し、タイムキーパーとハンズオン補助をお願いした。参加者は普段
から⼈⼯呼吸器に馴染みのある医師ばかりであり、準備した内容はある程度マ
ッチしていたと感じた。初⽇の反省を⽣かして、実際に⼈⼯呼吸器に触れていた
だく時間を⻑くすることで、より多くの受講者がハンズオンに参加できた。雰囲
気も盛り上がり何点か質問もいただいた。
今回のセミナーを通して、設備の⾯では⽇本ではないようなトラブルが起こ
るため、早めに現地の会場準備のスタッフと密に連絡をとり、必要物品などを細
かく指⽰しておくことが必要だと感じた。また今回マンダレーとヤンゴンでは
参加者の背景や実⼒が⼤きく異なっており、事前にこれらの情報も現地の医師
から得て、それぞれの場所にあった内容にしなければならないと感じた。これら
の反省点を次に繋げていきたいと考える。

ミャンマーでの臨床⼯学技⼠育成のための調査報告

岡⼭⼤学は以前より岡⼭⼤学名誉教授、岡⽥茂理事⻑のNPO 法⼈⽇本・ミャ

ンマー医療⼈育成⽀援協会の活動で、臨床⼯学技⼠(CE)育成のための研修を

⾏っている。今年も10⽉から2名の技⼠を受け⼊れる予定である。また⽇本臨

床⼯学技⼠会とJICA、透析医学会などが連携してヤンゴン医療技術⼤学(UMT)

にME1年コースを作り、臨床⼯学技⼠を育成していく予定である。これらを⾒

据えて、ミャンマーでの臨床⼯学技⼠育成のための情報を収集するため、セミナ

ー終了後に様々なミャンマーの病院の⾒学、エンジニア達のモチベーション、実

⼒や今後CE がどのようなところで活躍できるかを調査した。

6/21(⽔)の第⼀ヤンゴン医科⼤学のセミナー終了後に、New Yangon General

Hospital(NYGH)で勤務するJICA シニアボランティア岩井⽒をJICA スタッ

フと共に訪問した。岩井⽒はCE であり、⽇本の臨床⼯学技⼠という⽬線で院内

でのME 機器や設備の問題解決を⾏いながら、若い2⼈の⼥性エンジニアの育

成を⾏なっている。彼⼥らは⼯学部を卒業して保健省に採⽤され、BME トレー

ニングを受けている。しかし実際の医療現場では、それらの知識を⽣かすところ

まで進んでおらず、研修に対するモチベーションもないため研修内容をほとん

ど覚えていないような状態とのこと。また内容も座学中⼼で、基礎的なものだっ

たため、質は良いものではなかった。

現場では医学知識がないため医師、看護師と話ができないということ、エン

ジニアという⽴場の弱さから劣等感を感じており、仕事に対するモチベーショ

ンが上がらない現状もうかがえた。現在病院に勤めているが賃⾦も安く、他の

電⼒会社の採⽤試験に応募しているような状況である。

これらの背景からも、CE コースができたときに受け⼊れる学⽣の選択も重

要ではないかと⾔う議論となった。将来的にはミャンマー側で臨床⼯学を講義

できる⼈材を作らなければならない。よって本当に臨床⼯学に興味がある⼈

で、さらには修⼠以上の学位を持っていることが望ましいという話が出た。

岩井さんの話から現在ヤンゴン⼯科⼤学(YUT)にBME コースがあり、修

⼠課程に在学中の⽣徒がいることがわかり、彼らがもし興味があればふさわし

いのではとの話となった。しかしYUT(⾼等教育省)とUMT(保健省)は管

轄している省が異なっており、お互いコミュニケーションがないという問題が

ある。

現場での問題点

漏電は⽇常茶飯事であり、訪問時もパソコンから55V 漏電していた。200V 以

上の電圧が流れることもあるので漏電チェッカを持ち歩いている。また停電が

頻繁に起きたり電圧が不安定なため、それが原因で機器も故障しやすい。

電源は全て2P

アースがないので感電のリスク、ノイズ混⼊が問題となっている。現在岩井⽒に

よってすべての電源を3P に変換されている。機器は壊れたら捨てるという考

えのため保守管理の概念がない。機器が壊れても部品がない。機器の点検をする

ための装置はテスタのみしかなく、各種点検装置が必要である。たった数円の備

品を購⼊するのも申請などが必要で、とくに⾼価なものは購⼊するのが困難。

現在の取り組みは、院内にある全医療機器のリストを作成し、機器の状態の点

数化を⾏い把握してそれを院⻑に報告する予定とのこと。

6/22(⽊)ヤンゴン-ネピドー

Dr.Terry の協⼒のもと、ヤンゴンからネピドーまで⾼速道路を利⽤して移動

し、その道中40 マイルごとに設置されている救急⾞ステーションや、⾼速道路

での事故による患者のみが集まる病院、市中病院を⾒学させていただいた。

3箇所の救急⾞ステーションを巡回。救急⾞の動作、機材の確認を⾏った。

救急⾞ステーション

救急⾞内の装備はモニタ(パルスオキシメータ、パルスレートのみ)、吸引

器(電動、⼿動)、AED、酸素ボンベ(⾞載、ポータブル)、ストレッチャー。

機器の故障などがあったら業者に依頼する。業者を呼ぶための交通費、宿泊

費、⾷費まで施設が負担しなければならない。

⾼速道路での事故患者のみを収容する病院

夫婦で医師2名、看護師4名で1⽇40名ほどの患者を診察、うち10名程度が

⼊院する。

発電機

停電時は、屋外に設置された発電機のスイッチをいれることで電源が供給でき

る。政府により作られた病院のため、停電することは稀である。

⼈⼯呼吸器、除細動器のセルフチェックは医師が⾏なっている

多数傷病者を度々受け⼊れるため、院内にトリアージエリアがあり、それぞれで

使⽤する物品をパッケージしている。

⿇酔器は⿇酔医のみが使⽤する。⻑い間使⽤されてなさそうだった。⼿術は腰椎

⿇酔を多く⽤いる。

術野の⽪膚消毒薬は、飲料⽔のペットボトルに⼊っていた。

⾼速道路から少し離れた市中病院。ほとんどの患者さんがバイクで来院。

訪問時はインド⼈が多かった。ICU にはモニタとベッドくらいしかない。

道中での写真。写真のように学校への通学⼿段として使⽤されている乗り物は

安全性が配慮されていない。

交番

5マイルごとに交番があり、警察が常駐している。事故発⽣時は現場に急⾏し、

救急⾞にも連絡をいれる。これにより救急⾞の到着時間が早くなった。事故の発

⽣の情報は通⾏⼈からも⼊ってくる。警察のシステム?は⽇本をモデルにして

いるそう。

信号機がない中、⾞やオートバイが⾊々な⽅向から⾛ってきます

⾼速道路でオートバイに乗るのは法律違反、警察は?

⾼速道路のパーキングエリアや道沿いに、事故を起こした⾞が置いてあった。

⾸都ネピドーに到着

街の雰囲気は、アメリカのワシントンDC のように道が広く、綺麗に補装され

ており緑が多い印象。⼈通りはとても少ない。

オバマ⼤統領がミャンマー滞在時に泊まった?ホテルに宿泊させていただいた。

激しい⾬が降ると道路照明灯が停電する

ネピドーに到着した夜、Dr. Terry の同僚である救急医のピ医師と放射線機器の

技術者であるチョさんと⾷事をさせていただいた。

チョさんは、放射線機器の研修で、⽇本にも3度で訪れたことがあるとのこ

と。彼はUMT 卒業とのことだったので、今後臨床⼯学技⼠のコースを作るこ

とに対しての意⾒をいただいた。UMT とYUT は、やはりコミュニケーション

はないが、お互いが連携することはかなり効果的であるとの意⾒をいただいた。

またCE に対して興味をもってくださり、どのようなものかを教えて欲しいと

依頼されたため、翌⽇プレゼンをさせていただくこととなった。

Jr.救急医のピ医師と放射線科のTechnical Officer のチョさん

6/23(⾦)1000 Bedded Hospital, Naypyidaw 救急部を⾒学

Dr. Terry の勤務する名前の通り1000 床の病床を有する総合病院の⾒学を⾏な

った。

EMERGENCY DEPARTMENT

救急外来⼊り⼝にはトリアージエリアがあり専属のトリアージナースがいる。

前⽉に1件、今⽉1件の多⼈数傷病者が発⽣した災害があった。

救急外来 ⼼電図も2P プラグ

機器やバックバルブマスクが無造作に置かれている

院内のME 機器に関しては、Dr. Terry が岡⼭⼤学にて我々CE の役割を⾒てい

るため、機器の保守管理、メーカとのやりとりに関してすべてを担っていると

のこと

16 列のCT スキャン ポータブルレントゲン装置

病院内に救急⾞のコールセンターが併設されておりミャンマー中の救急要請

をここで受けている。救急⾞にはGPS が搭載されているため、⾞の位置、動作

ステータスなど把握できる。患者の病院選定もここで⾏う。1⽇の電話件数は約

16000 件。

レクチャールームに英語の医学書や様々な教科書があった。

すべて医学教育は英語で⾏われている。⺟国語を⽤いるのはアジアで⽇本とタ

イのみ。

ネピドーで働くエンジニアに対して⽇本の臨床⼯学技⼠についてプレゼンを

⾏い、インタビューをおこなった。彼⼥らは、電気や機械系の⼤学を卒業後、病

院内外でエンジニアとして働いている。仕事内容は⼟⽊系、施設の電気、⽔配管

などの整備を⾏なっているそう。⽉収は180000 チャット、⽇本円にしたら⽉収

15000 円程度。⽇本と⽐べるとかなり低賃⾦だが、本⼈たちは現在の仕事が好き

で楽しく仕事しているとのこと。

今回話をした3 ⼈のエンジニア達は、今後⼤学院に進学してマスターを取得

したいとのこと。マスターを取得しても仕事内容は変わらないが、純粋に新しい

ことを学びたいという⾼い意識を持っている。臨床⼯学技⼠に関して感想を聞

くと、仕事内容について全く知識がなく、医療機器に興味がなかったようだが、

実際に話をきいて、興味が湧いたとコメントをいただいた。しかし、修⼠や博⼠

の学位がとれるかが、コースを選択する上で重要とのこと。そして在学中は、仕

事ができないため給与をもらいながら通学しないと難しいと⾔われていた。

1000bedded Hospital の⾒学を終えて、ネピドー国際空港から⾶⾏機でヤンゴ

ンへ。ヤンゴンに戻り、過去に岡⼭⼤学で研修を⾏なったエンジニアと、⽇本で

の研修後にどのような活動を⾏なっているか、近況を聞いた。その後、今年度の

研修⽣と⾯談を⾏い、当院での研修のために現在の仕事内容や、研修で学びたい

ことなどの情報収集を⾏なった。

昨年までの研修⽣

前例のないエンジニアの研修ということもあり、Department of Medical

Research から派遣されていた。勤務地はYangon General Hospital の近くだが、

院内では働いていない研修⽣であった。

2015 年度の研修⽣Khine win さんは、⽇本の臨床⼯学技⼠に感銘を受け普段

は病院勤務ではないにもかかわらず、⽇曜⽇を除いて1〜2 時間アルバイトで個

⼈クリニックにて電気、Water supply、機器管理を⾏なっている。そして透析患

者が多くいるMonk Hospital にて、週⼀回ボランティアとして透析装置の動作

確認、フィルターのチェック、⽔質管理を⾏なっている。

2016 年度の研修⽣Chothanda Tunyi さんはバイオセーフティに携わっており

アジアのいろいろな国を⾶び回っており、本当に忙しそうであったが、残念なが

ら今のところ⽇本で学んだ臨床⼯学の知識は活かせていないとのこと。

今年度のミャンマー研修⽣

保健省のDepartment of Medical Service の中央消耗品供給局にて勤めており

上司、部下の関係である。病院には勤めておらず、ミャンマー各地から医療機器

の不調などがあれば彼⼥らの部署に依頼が⼊り、機器を回収して保守管理、修理

を⾏う。頻度は4回/⽉程度依頼がある。臨床⼯学を学びたいという強い意志を

もっており研修を楽しみにしている。

担当機器:

オペ無影灯、放射線装置、エコー、⼼電計、ガス配管、⾼圧蒸気滅菌、酸素濃縮

器、⿇酔器など

今回のミッションで、今まで岡⼭⼤学で研修を受けた医師、エンジニアの研修

⽣たちの近況や、実際の仕事現場を⾒ることができ、今後の研修に活かすための

情報を得ることができた。そして岡⼭⼤学でCE の役割を常に⾒てきた医師と

活動をともにして、様々な病院、施設でCE の重要性を話してくださったため、

臨床⼯学技⼠の認知に繋がった。このように、我々の存在をよく知る医師のリー

ダーに後ろ盾となってもらい、啓蒙活動を続けることが必要だと感じた。

ミャンマー滞在中、様々な⼈々が精⼀杯の歓迎をしてくださり、親切さや優し

さをとても感じた。これらの関わりを通して、発展途上で⽣活⽔準が低く、考え

られないような安い給料で働いている⼈々でも、学ぶことを純粋に楽しみなが

ら、向上⼼に溢れており、常におもてなしの⼼を忘れない姿は本当に感銘を受け

た。多くの⽇本⼈が忘れてしまっている感覚ではないかと思った。

ミャンマーにおける問題点

○設備・環境

・電気の供給が不安定なため停電が起きる。また電圧の変動が⼤きいため機械

が壊れる。

・電源プラグが2P なため、漏れ電流やノイズの混⼊が起こる。

・感染制御に対する配慮が薄い。(床に物を平気でおく、⼿を洗わない)

・設備を修理するのにかかる費⽤を病院に請求するのがとても困難。

○⼈物・習慣

・エンジニアが実際の臨床現場に出ても、医学知識がなく医師、看護師と対等に

話ができないので劣等感を感じたり、相⼿にされないこともある。

・機器を保守点検するという概念がなく、壊れたら廃棄する。

・仕事はそれぞれ細分化されているため、⾃分の領域以外は⾏わない。⾃分の仕

事部屋の⾝の回りを掃除するだけでも不⾃然なことに感じるそう。

・教育は⼀⽅通⾏のものばかりで、それぞれが考えて議論するという習慣がな

い。⾔われたことをそのまま覚えることは得意だが、物事の先を考えて⾏動した

り、問題点の抽出・改善するようなことが苦⼿。⾃分で考えさせて、⾃⾝で伸び

ていくようにしなければならない。

・階層社会のため、部下が上司に提案をすることはほとんどない。例えば、勉強

会などで新しい知識を得て現場に還元しようとしても、それは上司のやり⽅に

問題があるというのに等しい。

・物事を決定するために下から要望をあげていくことは、難しいことであるた

め、トップダウンで⾏うことが必要。院⻑、またはその病院で⼒をもった医師を

味⽅につけるのが効果的だと思われる。