聖隷浜松病院 臨床工学室 室長 北本 憲永

 

 今回、個人的な旅行ではありますが海外での病院見学を充実して行えたので皆さまと共有したいので報告させて頂きます。今回の旅行のきっかけは、臨床工学技士養成校時代の同期の長澤智一氏が2017年12月に中四国臨床工学会で講演を行うためコロラドから日本にきた時、聖隷浜松病院を訪問し、アメリカ合衆国での資格取得から就業ビザ、現在の施設での活躍の講演をして頂きました。その夜、我が家に宿泊し息子にも海外の良さを話してくれました。その中で講演の内容を自分の目で確認することと、娘が看護大学生であること、そして高校生の息子を海外に触れさせるよい機会だと思い、早速コロラド行きの飛行機のチケット予約をしました。滞在先は長澤家にお世話になれると言うことで行くことには躊躇なく決定できました。そして、2017年3月17日~3月27日まで、私と看護大学に通う娘、4月より高校3年生になる息子を連れて、コロラド州コロラドスプリングスにある長澤家を訪問してきました。過去に海外の病院見学やメーカでの研修、発表(通訳付)などで何度か海外旅行には行ったことはあったのですが、個人でアメリカ合衆国に行くのは初めてで、飛行機の手配やESTA申請(入国に必要な事前手続き)、保険の加入など事務的なことを自分ですべて行う必要があり、少し不安には思いましたが、逆に今までお任せで気楽に海外旅行にいけていたことに感謝する機会となりました。

初日 39時間の旅(1日24時間とは限らない)

 飛行機は成田空港からからデンバーまでの直行便約10時間で到着。時差は約15時間(日本より遅れている)で金曜日の夕方に出発し金曜日のお昼に着くという長い一日となりました。飛行機から降り到着出口をでると長澤氏がお出迎えしてくれました。そのままコロラドスプリングスまで車で約1時間半高速を走ると長澤家に到着となります。しかし、日本人観光客!途中にアウトレットがあるため早速お買い物の寄り道。何はともあれ、まずは日本に残した妻ご指定の鞄をゲットするため有名ブランド店へ。指定の鞄が色違いしか無く似たような別の形を購入。娘が選んだので文句は言われないかなと・・。スノーボードも滞在中実施予定ということで息子はゴーグルを有名店で購入。あとは服などを数点購入しました。アウトレットとドルの効果か?安いということで金銭感覚麻痺状態、大量購入し子供達はご満悦!カードの決済がすでに怖い私!長澤家に到着したときにはすでに夕方でした。家族の紹介と最初の夕食をごちそうになり長い楽しい一日は終了しました。

2日目


 土曜日は最初にPIKES PEAK mountain 14,115ft(標高4302m)に車で登り、美しい雪景色と断崖絶壁のスリリングさ、氷の湖など堪能しました。特に氷の湖を歩くことができたのは自分にとって、とても新鮮でした(安全は自己責任で)。その帰りにGarden of the Godsを観光しました。Balanced Rock in Garden of the GodsやThe Kissing Camel rockなどが有名で多くの観光客が訪れていました。

 

夜は長澤家長男が演奏で出演する高校生が行うミュージカル『Into the Woods』を鑑賞しました。日本でも公開されたミュージカルの映画で(18歳以下禁の映画ですが・・)高校生がすべて配役、照明、演奏などを担当するのですが、とても完成度の高い物でした。

3日目

 日曜日はROYAL GORGE BRIDGE という大きな吊り橋を観光しました。車が渡ることもできるのですが、なんと木の板張りの吊り橋で板と板の隙間が微妙にあり、風も強く橋も軽く揺れており、下には川と鉄道が見えるのですが橋から下は約300mととてもスリリングな感じでした。

帰りにコロラドスプリングスのダウンタウンを少し歩き、翌日は長澤氏もお仕事のため早めに切り上げました。月曜日と火曜日は病院見学を予定していました。そのため息子は我々が病院見学している2日間はhigh schoolへ短期留学。長澤家長男と同じ年齢(誕生日も一日違い)であったことから授業を受けられるよう手配をしてくれていました。おかげで普通では経験できないことを体験させて頂きました。初日は慣れるのに時間がかかったようですが2日目は英語教師から直接英語の指導、バイオリンの演奏やアメリカンスタイルの授業など、たくさんのコミュニケーションをとり、とても楽しく過ごせたようです。その後の買い物などは一人でどんどん行くようになりました。これも成長ですね。その後も長澤家長男と毎日夜中まで意気投合していました。

4.5日目

 病院見学へは娘を連れて、長澤氏が働くUC Health MEMORIAL HOSPITAL に同行し見学しました。長澤氏が主に働くカテーテル室ではスタッフが皆フレンドリー で朝のbriefingで簡単に挨拶を行い、浜松からお土産で持って行った『うなぎパイ』を夜のお菓子と知っていたようでクスクス笑いながら喜んで頂きました。

カテーテル室では手際よく準備が行われており、麻酔器は麻酔補助者、清潔野の準備は外廻りには看護師、清潔野は主にRegistered Cardiovascular Invasive Specialist(RCIS:長澤氏の所有資格)が準備を行っていました。RCISは長澤氏の講演を聴かれた方はご存じでしょうが、医師の指示の元、カテーテルを挿入し治療を補助代行できる資格です。心臓カテーテル、不整脈(ペースメーカやアブレーション)などカテーテル室内のことは幅広く治療補助でき、最近では脳外科領域にも拡大していると言うことでした。その後、カテーテル室にある日本ではまだ入っていないペースメーカでMedotronic社 Micraという重さわずか1.75g、大きさ25.9×6.7mm、ペースメーカリードも必要無くモードはVVIRまで対応できる装置を説明してもらいました。また、日本でも期待されているABIOMED社 impella(左室から軸流ポンプで大動脈に血液を流す)と最近日本でも臨床使用可能となったBoston Scientific社 WATCHMAN(左房内血栓捕獲用ネット)などをカテーテル下で挿入するデバイスを見せてもらいました。また、IABPのサイズが身長162cm以上の人は8Frで50cc、152~162cmは7.5Frで40ccと日本よりバルーンサイズが大き目であることに驚きました。その後、長澤氏のボスMs.Deborahに挨拶に伺い最新のデバイスについてディスカッションを行いました。するとご丁寧に病院内にいくつかあるICUを自らすべて案内してくださりました。手術室見学なども長澤氏と共に手配していただいたようで感謝です。

そして、カテーテル室にもどると循環器内科医のDr. Leeを紹介して頂きました。外来の少し手の空く時間にクリニックも見に来て良いよと気軽に話してくれ、クリニックを案内してもらいました。クリニックは廊下が円になっており、患者が効率よく検査が順に受けられるようになっていました。心電図、トレッドミル、放射線検査、エコーなどほぼ全てがそのフロアーで完結し、最終的に診察室で患者は待機しDrが順にその診察室を回るという日本ではあまりない構造でした。ペースメーカクリニックも専用の部屋がありプログラマーが各社机に並んでおり、どの機種でも対応できる状況でした。また、診察室に普通にテレビがついており、待ち時間に退屈しないようなになっていました。

 

手術室では、TAVIが実施されており、そこでもRCISの方が活躍されていました。また、ハイブリッド手術室は最近5億円かけて改築し最新の設備が備えられていました。特に清潔野の器械台を照らす特別な無影灯も設置されカテーテルに弁を装着するための環境が整えられていたことに驚きました。また、大型ディスプレイも2枚シーリングで吊下げられ、更に各壁面にも大型モニタが設置されていました。当然人工心肺装置は回路も組まれプライミングもされた状態で待機していました。

心臓血管外科手術は年間400例という話でしたが人工心肺装置は3台有り、Perfusionistは6名所属しているということでした。見学したときは冠動脈バイパス手術が行われていました。Perfusionistは2名で対応していました。その時担当したPerfusionistは2人とも25年のベテランの方でした。バイパス本数は3本で大動脈遮断下に実施し、解除後の拍動も良好で人工心肺時間は65分と驚くほど短く素晴らしい手術でした。人工心肺の管理も完全常温で低体温は脳分離症例のみ25℃管理ということでした。基本的に装置は同じシステムでプレコネクト回路を使用していました。待機状態の人工心肺装置も回路が組まれプライミングをした状態で待機させるのが当たり前と言うことでした。日本ではいくつかの施設で報告はありますが中々広まらない方法ですね。

病院見学中、娘も看護師の配置人数や役割、できることなど確認していました。専門用語はまだ実習していない分野も多かったことと、日本で臨床工学技士が行っている業務の見学が中心であったので理解が難しかった部分もありました。ただ、アメリカでの看護師の地位の高さや環境など日本との違いを感じることができたようです。また、中止になった症例の部材を使用し、長澤氏からガウンテクニックやカテーテル部材を実際の現場で体験させてもらいました。

 

病院見学は、当初、患者さんのいるところには入れないということでしたが、長澤氏のコミュニケーションと出会ったスタッフのおかげで病院内のほとんどの場所を見学することができました。今回の見学で日本でも患者さんを中心に対応するシステムをもう一度考え直す良い機会となりました。また、我々スタッフの環境も改善する必要があると改めて感じました。

6.7日目

 3月22~23日は長澤家とスノーボードをするためkeystoneに行きました。とても天気も良く青空で最高のロケーションでした。1回のリフトやゴンドラも長く子供達についていくのが大変でしたが皆楽しむことができました。宿泊もコンドミニアムで暖炉やリビングルームにカウンターキッチン、寝室が分かれて存在し、それぞれにトイレやフロがついているとても豪華な部屋でした。宿泊中、夕食のために肉を焼いた時、火災警報器が鳴るというトラブルが発生してしまいました。外を見ると同じ建物の宿泊者が避難し消防車まで来てしまうという事件もありましたが、これも終わってみれば旅の笑い話、ある意味感心しました。警報の作動で消防隊が駆けつけるという安全な国なんですね。翌日もスノーボードを楽しみましたが、私個人はその後筋肉痛で動くのが大変でした。

8日目

 3月24日は馬に乗りGarden of the Godsの回りを散策し観光する予定でしたが突然の雪で中止となりました。前日までコロラドは日中24℃の気温で暖かかったのに、一気に氷点下で雪が30cm程度つもり辺りは一面銀世界となりました。庭で雪だるまとなぜかゴジラを作成。観光が難しいためお土産を買いに行きました。

9日目

 3月25日は一点晴天となりました。雪は残っていましたがSeven Falls(7つの滝)に行き、森林浴をしました。マイナスイオンと景観を楽しみお昼は外で昼食をとりました。長澤家滞在中の最後の晩餐を堪能しました。

最終日

 3月26日日曜日日本への帰国の日。ご家族とハグして、「さよなら」を惜しみながらデンバーに向かいました。長澤氏夫婦でお見送りをして頂きましたが、長澤氏が空港内にも入って頂き至れり尽くせりでした。

最後に

 長澤家の方々には大変お世話になり感謝という言葉だけでは語れないです。本当に楽しく充実した日々を過ごさせて頂きました。観光だけでなく病院見学も実施できたことで海外旅行を何倍も満喫することができました。10日間では全く足りない旅行でした。何度も遊びに来たいと思います。是非、読者の皆さまも海外旅行を楽しんで視野をどんどん広げて下さい。長澤家の皆さま、UC Health MEMORIAL HOSPITAL病院関係者の皆さま、本当にありがとうございました。