中国医学装備協会学会

第26回中国医学装備協会学会参加報告

吉岡淳、園川龍毅、川崎忠行
公益社団法人 日本臨床工学技士会 国際交流委員会

 2017年7月20日〜23日の4日間の日程で、中国蘇州において第26回中国医学装備協会学会が開催され、日本の臨床工学技士(Clinical Engineer: CE)が参加をする機会を得た。また、会期中に主要会議へ出席する機会を得たので報告する。今回は、中国医学装備協会(Chinese Medical Equipment Association: CMEA)からの招聘を受けた川崎忠行名誉会長(日本臨床工学技士会(Japan Association of Clinical Engineers: JACE))、園川龍毅委員(国際交流委員会中国担当)、芝本隆教授(群馬パース大学)、山家敏彦教授(神奈川工科大学)、吉岡淳(国際交流委員会担当理事、筆者)の5名と、現地での合流者2名(通訳の張氏、エンジニアの馬氏)を合わせた7名での学会参加となった。

1.第26回中国医学装備協会学会in蘇州

 「上有天堂、下有蘇杭。−上には天国があり、下には蘇州・杭州がある。−」と美しさを象徴した言葉があるように、第26回中国医学装備協会学会が開催された蘇州は中国で最も美しい街であった。また、蘇州は水郷で有名な場所で東洋のベネチアとうたわれている。中国では本格的な夏を迎え、渡航中は連日、日中の最高気温が43度を超えるなど厳しい熱波に見舞われた。

 第26回中国医学装備協会学会を主催しているCMEAとは、医師、看護師、工程師(医療技術者)、政府、メーカー技術者、ディーラーなど、医療機器に関わる職種から構成されている。趙自林理事長のもと、血液浄化装置技術委員会など44の委員会下部組織からなり、現在、約20,000人の会員がいる。CMEAが毎年開催している中国医学装備協会学会には会員の約半分を占める10,000人が参加をしており、日本臨床工学会をはるかに超える規模であった。第26回中国医学装備協会学会のプログラムは、特別講演、海外招聘講演、一般演題(ポスター演題なし)、44の委員会企画から構成され、展示会場には300を超える企業が出展しており、日本臨床工学会の展示面積の2〜3倍近くあった。

 余談ではあるが、中国の主要施設や地下鉄に入場する際には空港同様の手荷物検査と身体検査があり、X線と金属探知機を受ける必要がある(写真1)。

 

2.趙理事長との会議

 蘇州到着の20日(木)に趙理事長との会議が行われ、今後の中国における「透析工程師」の新制度設立について話し合いが行われた。新制度設立においては、数年前より中国側から日本のCE制度を取り入れたいとの要望があり、中国へのCE普及の第一歩として、急増する透析療法における透析工程師の育成および技術交流が現在までに行われてきた。今後の具体的な項目としては、透析液安全管理(清浄化含む)に関するセミナーへの講師派遣等、透析液安全管理(清浄化含む)に関する日本研修、透析における事故と対策に関するセミナーへの講師派遣等、医療機器保守管理担当者育成に関する協力、血液浄化認定制度に関する協力、研究結果発表会(学会)や共同研究等に関する打ち合わせ等がJACEから提案され、さらなる交流が約束された。

 会議後は、趙理事長より晩餐会へ招待され、美味しい中国料理と白酒で交流を深めた(写真2)。

 

3.血液浄化装置技術委員会及び教育セッションへの参加

 学会1日目の21日(金)に血液浄化装置技術委員会へ参加した。委員長の左力先生(北京大学)より、委員会の役員が紹介され、続いて園川委員よりJACEからの参加者が紹介された。挨拶を終えると、左先生より今までのJACEとの日中血液浄化技術交流についてスライドを用いて1時間あまり説明がなされ、「将来は、透析に従事する者に対して認定もしくは国家資格制度を確立させる」、「日本のCEから透析液の水質管理や穿刺等の透析技術を学ぶ」、「透析工程師を日本へ研修生として送る」、「数年のうちに1万人の透析工程師を誕生させる」、「透析工程師は透析装置の管理のみで操作が出来ないため、日本のCEのように透析装置の操作までを行えるようにする」、「現在、医師、看護師向けの透析ガイドラインは作成されているが、透析工程師の透析ガイドラインがないため作成をする」、「地方や貧しい人のためにe-learningを導入する」など、未来を見据えた展望が幾つか述べられた(写真3)。

 委員会では今まで透析工程師という名称を使用してきたが、今回は「臨床透析工程師」に置き換えられていた。名称に“臨床”の文言が追加されたことから、中国側の装置操作への強い想いが感じられた。委員会後には血液浄化装置技術委員会企画の教育セッションに参加をした。ここでも、日中血液浄化技術交流の重要性と今後の方針について、意見交換や講演等がされていた(写真4)。

 

4.病院医療機器委員会への参加

 学会2日目の22日(土)に病院医療機器委員会へ参加した。2010年より透析工程師とは深い交流はあったが、今回初めて、臨床工学分野に携わる工程師との交流ができた。臨床工学分野で働く工程師は、中国では大きく「エンジニア」と「BME(Biomedical Engineer)」に分類されていた。どちらの称号も工学系の学位を持っている者に限り許されていた。エンジニアもしくはBMEは、病院内全ての医療機器を管理しており、アメリカのBMEのようにCTやMRIまでも管理していた。そのため、委員会ではCTやMRIについての話題が多く、日本のCEとは少し毛色が異なっていた。

 JACEからは、CEは国家資格であること、生命維持管理装置を含めた医療機器の操作までを行なえること、日々の業務内容について説明をさせて頂いた。大変と日本のCEに興味があったようで説明後は、病院で従事しているCEの人数や配属先、詳しい業務内容、人材のローテーション方法、新人教育や卒後研修方法等に対して多くの質問を受けた。

 委員会後に中国でのエンジニアとBMEとの立ち位置の違いをCMEA役員の方にお聞きした。あくまでも「個人的な見解」という断りがあった上で、中国ではエンジニアと呼ばれる工程師の方がBMEよりも教育や技術の面において優れているとの回答を得た。

 

5.国家医師資格考試委員会主任医師との出会い

 22日(土)の学会終了後、趙理事長との会議の際に交流したCMEA出版社の崔社長から中国医師の国家試験を作成している最高位の李建国先生と出会った。JACEについて説明をさせて頂き、我々の諸先輩たちが10年ほどの準備期間を得て30年前にCE制度を設立したことや、設立後も業務指針の作成や診療報酬の改定、認定制度の導入等の活動を行ってきたことに大変と感銘を受けておられた(写真5)。そして、李先生より、日本での医師や看護師に対する医療機器研修や、CEの卒後研修について多くのご質問を頂いた。また、将来の中国での工程師国家資格制度設立のためには日中間の友好交流の継続と強化が必要であると述べられ、次回、北京への招聘依頼を頂いた。

 

 最後に、今回は中国医学装備協会学会に参加をし、従来から交流のあった透析工程師に加えて臨床工学に携わる工程師との交流ができたことは、大変貴重な機会であった。特に印象的であったのは、(1)工程師の国会資格化もしくは認定制度設立に向けて、JACEへの期待が非常に大きい(2)中国は民族的・文化的にも多種多様であり、方針を一つにまとめるまでには時間を要する(3)中国医学装備協会は、患者第一を考え、徹底した医療機器における安全管理を追求しており、患者ケアを充実させるために工程師の技術・知識の向上を目指している、の3点である。

 今後の課題も山積しているが、現行の透析工程師の業務は水処理装置の管理と若干の透析装置のメンテナンス程度であり、一方、臨床工学分野の工程師は病院のあらゆる医療機器を管理しているが操作までには至っていない。引き続き、中国工程師を国家資格化するためにはJACEとして何ができるかを考えたい。また、工程師が理解できるように、JACEの業務指針や臨床工学技士法令の英文資料を早急に作成するべく、国際交流委員会で検討を重ねていく。

写真1. 学会会場入り口での身体検査と手荷物検査

写真2. 中国医学装備協会の先生方との晩餐会
(川崎名誉会長の向かって右が趙理事長)

写真3. 血液浄化装置技術委員会での討議風景(演者の左先生)

写真4. 血液浄化装置技術委員会教育セッション風景

写真5. 李建国先生(左奥)との工程師の国家資格化に向けた会談

 

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