かなちゃんパパの近況報告 ~コーチング研修インストラクター取得までの道のり~

 

第1回 オリンピック選手の育成に使われている「コーチング」

寝不足の続いたロンドンオリンピックが終わりました。日本は、38個のメダルを獲得すると言う快挙にはとても驚き、感動の日々を過ごさせてもらいました。感謝、感謝です。特に印象に残っているのは、女子バレーの28年ぶりの銅メダル。この銅メダルに至る過程には、現代のチーム力アップのプロセスが隠れています。

眞鍋政義監督のITバレーは有名であり、試合中にiPadを手に選手たちに指示を出すシーンは皆さんの脳裏に焼き付いているのではないでしょうか?

しかし、真鍋監督は、「個々の能力をいかに引き出すか、によってチーム力は変わると思っています。団体競技とはいえ、まずは個々のレベルアップからです。

監督として私が大事にしているのは、「情熱」と「勉強」です。情熱を持つのは当たり前のことですよね。」と言っています。これは、医療におけるチームを構築し、最良の医療を提供することに似ているのではないでしょうか?

真鍋監督は、個々の能力を「上げる」のではなく「引き出す」と言う言葉を使っています。ここにヒントがあります。

そして、命を救うんだと言う「情熱」と適正な医療の維持と向上のための「勉強」は欠かすことはできません。

チーム医療(チーム力)を構築するためには、個人と病院に大きなギャップのない一致団結した信念が共有されていることだと思います。この信念が、患者さんやご家族に提供される「安心」「安全」「適正」な医療に繋がるのだと思います。

真鍋監督がチーム力を上げる(信念を共有する)方法として、個々の「能力(情熱と勉強)」を「引き出す」ために使われた手法が「コーチング」なのです。

真鍋監督は昭和38年生まれで、ほぼ私と同世代。20歳代の多い若い選手達を統率するには、私が中学・高校の部活動(バドミントン部でした)で行ってきた「根性論」では成り立たない時代なのです。

臨床工学技士も30歳以下が70%を占め、女性も多い医療職であり、統率を図る立場となる私と同年代の方々も「満足度」「情熱」のギャップに困惑し、管理・指導で悩んでいるのではないでしょうか?

今回、部下を監理・指導する立場としての「コーチング」手法の重要性について綴っていきたいと思います。

 

第2回 臨床工学技士になぜコーチングが必要なのか

さて皆さん、次の問題を考えてみてください。

①聞いたことは、○○○。
②見たことは、○○○。
③やったことは、○○○。
④○○○ことは、使う。

答えは、①は「忘れる」、②は「覚えている」、③は「分かる」「身に付く」、④は「発見した」です。

これは、「対話型ファシリテーター」と言う題で書かれた文章から引用したものです。コーチングやファシリテーターはとてもよく似ている部分があるので、この問題を取り上げてみました。

人は、自分で見つけたこと(発見したこと)の以外は、ほとんど忘れてしまいます。忘れてしまえば使うことができません。

したがって、「聞いたこと」や「見たこと」、「やったこと」は記憶には残っていたとしても、自分の力で応用して実際に使いこなしていくまでには達しないと言うことなのです。

ここで言う、「やったこと」とは、マニュアルの手順通りに行うことや人に教わった通りに行うことであり、自分の思考が伴っていないと言うことです。

更に問題となるのは結果として「やったこと」が完成すると、「私はできるんだ」と言う思い込みから、新しいことの発見がなされないことである(注意することや反省すること、復習をすること、自分なりのマニュアルを作ることなどが行われない)。

したがって、本当の「できる」と言う行動は、自らか関心を持ち、新しい発見したと言う思考回路が働いた時にのみ、理論化された行動が脳に埋め込まれ、次の応用を含めた行動につながっていくのです。

ですから、現代の若い人たち(若い人に限定してはいけませんが…)、マニュアルが無いと何も物事が進まないと言う状況になるのです。

そして、マニュアルを揃えていくことで、更にマニュアル人間が育っていくことになります。マニュアルで行った行動では感動が生まれにくい(発見が無い)ために、行動による満足度が低い(思い込みの満足度で終わってしまう)ことになります。そして、次の行動につながっていかないと言う悪循環に陥ります。

20歳代が70%で女性も多い臨床工学技士が業務を遂行していくためには、マニュアルと言う存在が欠かせないでしょう。業務は多種に渡り、あれもこれもと要望され、組織力は大きくなり認知度が上がるが、評価が必ずしもそれに比例せず、人数ばかりが膨張している病院も多いでしょう。

国(厚生労働省)の施策としての臨床工学技士の役割は、患者に密着したチーム医療の一員として期待している部分もあるものの、人材育成が追いつかない現状があること、国が書面として期待している業務としては「機器管理」と言う表現が強く、この結果として、院内での要望も、「機器管理」を主体とする業務の要望や、医療機器安全管理料の診療報酬の算定や、看護師不足を補いう為の補助要員と言う業務が増加しているのではないでしょうか。

この様な流れ作業的な業務では、命に関わる業務を行っていると言うイメージが湧かないことや、医療に対する「情熱」を持ちにくいのに合わせ、若い人たちの「満足するレベルの低下」と言う現状から、休日や夜間の呼び出しに違和感を持つ臨床工学技士も多くいるのではないでしょうか。

更に、急減な増員による人材育成の体制が整えられないこと(若い人が若い人を教える)、業務が細分化して幅広い知識の構築がなされないこと(ジェネラリストの育成が進まない)などの多くの問題があり、臨床工学技士の将来展望に不安を感じるのは私だけでしょうか。

この様な現状を打破するためには、臨床工学技士が本来持っている医療に対する「情熱」を呼び起こし、患者さんに対して本当に何がやりたいのか、そのやりたいことをどう実現していくのかを、自らの言葉で引き出し、自らの言葉で宣言させていく手法が「コーチング」なのです。

臨床工学技士の持っている能力には「無限の可能性」があります。その「無限の可能性」を引き出し、患者さんに最良の医療を提供することで、臨床工学技士の組織内がWin-Winの関係になると共に、臨床工学技士と病院の関係がWin-Winとなるでしょう。

そして、最終的には、患者さんとの関係がWin-Winとなるのです。

みんながHappyになる組織作りをして、患者さんをhappyにすることが病院の本来の姿です。

 

第3回 コーチングってなんだろう

第2回で、コーチングとはどんなものかの概略については触れましたが、もう少し説明してみましょう。

部下を指導する方法として、皆さんが今まで行ってきた手法は「ティーチング」です。「ティーチング」は、指示命令型のコミュニケーション手法で、上司の過去の経験から得られた成功体験を伝えていく方法です。

ティーチングの基本は、「教える」「ヘルプ (助ける」「1対多数」「上下関係」であり、この方法では、部下は何も考えずに業務ができますが、業務ができたとしても喜びを感じることが少なく、業務ができなかった場合には、他人(上司)の責任に置き替えてしまうのです。

そこで、「ティーチング」の手法に「コーチング」の手法を合わせて行うことで、上司と部下が手を取り合い、部下が責任を持って業務を遂行できるようにするのです。「コーチ」と聞くと、野球のコーチの様に「教える」と言うように聞こえますが、「コーチ(coach)」には「目的地まで馬車で送り届ける」という意味の動詞があり、上司が部下を目的に向かって導いていくと言う意味です。

ですから、「コーチングする」のではなく、「コーチング手法を使う」と表現します。

ヨハン・ヴォルフ・ガング・フォン・ゲーテの言葉に「自分一人で石を持ち上げる気がなかったら 二人でも決して持ち上がらない 」があります。部下が目的を持っていないのに、上司が無理やり目的を作って行わせても成功はしないと言うことです。

ガリレオ・ガリレイの言葉に「人に何かを教えることはできない。ただ、その人が自分で気がつくように助けることはできる」があります。

「コーチング 」の基本は、質問型のコミュニケーション手法で、「サポート(支援)」「引き出す(気づき)」「1対1」「協働(共生)関係」であり、上司と部下との信頼関係から成り立ちます。コーチングスキルには「傾聴」「承認」「質問」の3つがあります。

どうしてできなかったのかと言う過去を責めても、部下は言い訳をするばかりで、過去に戻って解決することはできません。

どうしたらできるのかと言う未来型思考でコミュニケーションを図っていくのがコーチングです。部下が何を目標にしているのかを心から聴いて気づきを与え、決して否定することなくその目標を承認して、その目標に向うにはどのような方法を行っていくことが良いのかを質問と言う手法で導き出し、その目標達成するプランをサポートして作り上げ、その行動を部下本人が宣言して行動に移していくのです。

山本五十六の言葉に「やって見せて 言って聞かせて やって見て 誉めてやらねば 人は動かず 話し合い 耳を傾け 承認して 任せてやらねば 人は育たず やっている姿を感謝で見守って 信頼せねば人は実らず」があります。コーチングそのものを表す言葉ですね。

3名の歴史上の人物の格言を上げましたが、コーチングとは決して新しい手法ではなく、古くから考えられている手法なのです。

コーチングってどんなものだろうと言うことがイメージできたでしょうか?

 

第4回 コーチングへの第1歩

さて、私がコーチングのセミナーに参加するに至った経緯をお話ししましょう。

私は今年の3月まで4名の部下を持つ臨床工学部の責任者でした。

27年前に今の職場に入った時は、上司が1名いる部門で、人工心肺と機器管理が主な業務でありました。経験を積むと共に、呼吸療法、新生児医療、在宅医療、教育活動、透析療法など多くの業務拡大をしていきました。

患者さんが必要とする仕事であれば積極的に業務を拡大する、365日24時間、自分を必要としてくれる仕事の依頼があれば駆けつけると言う気持ちでした。

上司の定年と共に3人体制の責任者になり、人員要求を行い5名体制まで増員しました。若い部下の育成を先決に業務拡大は図らずに体制を整えることに専念しました。

しかし、業務拡大と共に身に付けた私の知識は、部下にとっては脅威だったのかも知れません。夜間休日を問わずに患者さんに密接した医療を行う私の行為はプレッシャーであったのかも知れません。

休日も時間さえあれば学会やセミナーに参加し自己研鑽する、講演で全国を駆け回る。依頼原稿も年間10本程度をそつなくこなすパワフルなことも異常な人間と思われていたかも知れません。患者さんやご家族からは感謝され信頼される人間関係作りの手法は、部下には真似できないと思われたかもしれません。

部下にとっては、良い言い方をすれば雲の上の存在であったと思います。

私の信念は、「患者さんに失礼のない医療を提供すること」ですから、部下の指導は患者さん中心の考え方で非常に厳しいものでした。業務の確認も細かく、誤魔化しのきかない窮屈な組織だったと思います。

できる上司(自分ではまだまだ未熟者と思っていました)ではあるが、うっとうしい上司であったと思います。その上、多くの医師や看護師にすごく頼りにされていた反面、指摘が厳しく正論過ぎることでプライドを傷付けられたと感じ、業務のテリトリーを犯すと言う行為に毛嫌いする医師や看護師もいたのだと思います。

業務は、5名で4名分の仕事量と言うのが私の考え方でしたが、自分では3.5名分の仕事量だと思っていました。部下の休暇は十分に取れるようにしていましたし、部下のフォローも常にしていました。

的確な指示もしていたので、大きなトラブルが起こることもありませんでした。患者さんから頂ける経験は一番の教育であると言う考えから、ベッドサイドに行って診ることを勧め、自らが率先して早朝から夜間までベッドサイドで患者さんを診ていました。

患者さんへの安心で安全で適正な医療の提供と言う考えを軸としていた中で、教育活動などを推進する業務拡大で、部下を自然に圧迫して行ったのでしょう。

3.5人分の仕事量と思っていたのが、部下にとっては6人分ぐらいの業務に感じていたのかも知れません。部下にとっては、仕事ができる上司ではあるものの、目指したい臨床工学技士では無く、一緒には働きにくい上司であったと思われます。

部下の成長は容易には進まず、計画的に業務拡大は進みませんでした。教えることは大好きなので指導・育成にはかなりのエネルギーを注ぎましたが、なかなか思うような成長は見られず、焦りを感じ、更なる厳しい指導になって行ったのだと思います。自分だけが情熱と熱意をもって指導にあたっても、指導を受ける側にその意思・興味・前向きさ・目標がなければ、時間が取られるばかりで前に進まないのです。

戸塚ヨットスクール張りのスパルタ、根性論では理にかなった指導・育成ができないことを後で気づくことになるのです。

こんな積み重ねの中で、今年の3月に病院長に呼び出され、4月からは臨床を離れて、部下を持たない院内専属の教育担当になるようにと命令がありました。こんな屈辱的な人事には納得できませんでした。退職も考えました。

しかし、27年間働いたこの病院に対する思いと、「患者さんに失礼のない医療を提供すること」と言う思いを心底に持つことで、どうにか4月を迎えました。何か見えてくるだろうと耐え忍ぶ日々の中で、病院長から「コーチングを勉強してみないか。

必ず君のためになるはずだ。」と言う言葉から、全く「コーチング」に無知であった私が、コーチングのセミナーについて調べ始めたと言うのが「コーチング」への第1歩になりました。

自分は、働き者で、頑張り屋で、自分にしか無い知識と技術があり、自分がいなければ助けられなかった患者さんがいる。他職種からも信頼され、患者さんやご家族にも信頼されている。教育活動や医療安全活動にも積極的であり、病院には絶対に欠かせない人間であると言う自負を持っていた心を覆されたのである。

ここで書いた5年間の部下や他職種との関係や、部下の私に対する気持ちなどは全て私の推論でしかありません。部を離れることで見えてくること、無になって考えること、振り返ることで分かったこと、コーチングのセミナーを受けて受容できるようになった今、敢えてこの様な文章が書けるようになったことは、自らが少しの成長できたのかなと思うのである。

 

第5回 「コーチング研修インストラクター」の取得の道ーセミナー団体の選び方

今回は、私がコーチングのセミナーを受講するまでの方法についてお話ししましょう。

コーチングについて全く無知であった私にまずできることは、インターネットを利用して、コーチングとは何かを知ることでした。「コーチング」と検索するだけで多くの情報が得られました。そして、「コーチング」&「セミナー」と検索することで様々なセミナーの情報も飛び込んできます。

まず、びっくりするのはセミナー料金が高額であると言うことです。安くても60000円程度、高いものでは8000000円なんて金額もあります。自腹でどこまでのお金が投資できるかを懐具合から考えなければなりませんでした。金額に右往左往して、低額のセミナーから内容を確認していく作業の繰り返しをしました。同時に資料請求もしました。

情報収集をしていくと、「コーチングを学ぶ」と言うよりも「コーチングの指導をできる資格を取る」と言う目的のセミナーが多いと言うことです。

コーチングを学ぶ、身に付けると言うセミナーはとても少ないのです。ベーシックコース、基礎コースと銘打った2日間程度のセミナーが、6~80000円、200000円などと言うセミナーもあり、色々探していると、5日間程度で資格が取れるもの方がお得なのではと感じてしまうのです。

人は「資格」と言う言葉に弱く、自分に箔が付く物が欲しくなるものです。私も仕事が変わり、気持ち的にも弱くなっていた時でしたので、「資格」と言う文字に踊らされて、5日間で「研修インストラクター」と「コーチング研修インストラクター」のダブルライセンスが取れる約170000円と言うある意味お手頃な(懐には痛手ですが)のセミナーを探し当てました。決して大手ではなく、小さなNPO法人の団体が運営するセミナーです。

このセミナー団体のホームページには「コーチングとは何か:コーチングを知る」と言う説明があり、これをWordにコピペしたところ、68ページを数えました。

他のホームページに載っている説明は、表面的な物ばかりであるの中で、これだけの教科書的な説明を載せていると言うことは、「コーチング」に対する思いが熱いのだと感じました。この説明をとても興味深く読ませて頂き、これだけでも十分に役に立つのではと思うほど素晴らしいものでした。これで、このセミナー団体への信頼度はより一層高まりました。

無料体験コースと言うのがあったので参加したところ、参加者は私ただ一人。講師の方と雑談から今の仕事の状況などをお話しすると、「決して今までしてきた仕事は間違っていない。

病院もサービス産業であり、顧客(患者さんやご家族)が満足することを目指すことが必要であり、部下の方は熱意を持って教えてもらえて幸せだと思いますよ。もったいないですねー!今までの手法にコーチングの手法を取り入れれば、松井さんの技術・知識はもっと伝わりやすくなり、患者さんやご家族がもっと満足する病院にできるはずです。」と予定の1時間半があっと言う間に過ぎ、30分を超過した2時間の、私だけのための個人カウンセリングは終了しました。

ある意味、セミナー団体と言うのはとても不安で、特に心を扱うセミナーですから、宗教なのでは…とか、悪徳商法なのでは…なんて不安も持ちながら無料体験に参加しました。講師の方は、「認定エグゼクティブ・コーチ(独立してコーチングを教えられるレベルの能力を有している人)」「プロフェショナル・キャリア・カウンセラー(個人の充実した職業人生活の実現やキャリア開発・形成を支援できる能力を有している人)」なる資格を有していました。これもNPO法人の認定資格で、認知されているわけではなく、どのような能力を持っているのかと言う疑問を感じるところではありますが、私の率直な感想と言えば、講師の方は「人の心の言葉を引き出すプロ」であったと言うことです。

人が好きで、人から心の言葉を引き出し、良い方向に導く能力を持っている人物で、私もこんな能力があったら、もっと良い仕事ができたのにと感じるのでした。こんな人物になれたらいいなと言うことと、大手ではないために少人数でも開催してくれると言うことで、密着した指導を行ってもらえることも期待して、このセミナーに申し込むことにしたのです。

ここで、資格について付けくわえますが、この就職難の時代に、履歴書に何らかの資格があると箔が付くと(私と同じ考え?)受講しにくる方もいらっしゃるようです(その気持ち、就活中の子を持つ親としてはすごく良く分かります)。

20万円でその資格を買いに来ると言うことなのでしょう。しかし、私の受講したセミナー団体の方も言っていますが、資格は買うものではないと言うことです。個人レッスン的なセミナーでは、やる気のない人はついていけません。

大手で少人数と銘打っても20名程度を集めるセミナーでは、ティーチング(教える)ことに重点が置かれ、技術が身につかないで終わってしまいながらも、資格がもらえてしまうこともあるようなのです。この点を踏まえてセミナー団体を探して頂きたいと思いますし、やはり、目的を持って受講することが重要ですし、自腹を切ると言うのも腹を据えると言う意味で良いことなのではないかと思います。

自分に合ったセミナー(団体)を探すのは実際には難しいのではと思います。情報収集や無料体験でも分からないことだらけです。しかし、信じて受講する。これしかないのかも知れません。でも、一番大事なことは、講師という「人との出会い」を大切にできるところと言うのが選ぶ一つのポイントかもしれません。

 

第6回 コーチングセミナー経験談①

コーチングセミナーを受講した時の体験談を2回に分けてお話ししましょう。

セミナーの受講は、業務の一環(出張)として参加させてもらったため、平日で申し込みました。

セミナー当日は、何名の受講者がいるのかな?と不安になりながら会場(民家に似た3階建てのセミナールーム。新築できれいです)にたどり着くと講師の方が待っており、挨拶を交わしたところ、「今回のセミナーは1名だけでマンツーマンとなりますが、よろしくお願いいたします。マンツーマンなのでじっくりお話しができるので楽しみです。」と言うことでした。緊張感バリバリだった上にマンツーマンと聞き、更に冷や汗が出てきました。「休日は何名か来るんですが、平日はあまりいないんですよ。」と…。

採算を度外視したこのセミナー団体とは、どれだけ太っ腹なんだと思いつつ、5つある講義の部屋も1つしか使わないと言う、セミナールーム自体が私の貸し切りなのでした。(よくよく考えると、無料体験も私の貸し切りだったなー。)

無料体験を受講していたものの、「研修インストラクター」「コーチング研修インストラクター」と言う資格自体が実のところ良く分かっていなかったのです。

「コーチング研修インストラクター」はその名の通りコーチングを指導できる資格でしたが、「研修インストラクター」は何かと言うと、いわゆる講演における講師の手法を教わり、それを他者に教えられる資格であることを当日に知ったのです。

今までに50回程度の講演の経験のある私でしたが、講演の手法を教わったわけではないので、これは良い機会だと感じたのでした。

今の時代はティーチング(教える)ではなくコーチングの手法を取り入れた講義が重要であることを知ったのです。この様な手法を使う講師をファシリテーターと呼ぶことをその後で知ることになります(本当に何にも知らないど素人ですねー) 。

講師は毎回同じではなく、3名の方から教えを受けました。「認定エグゼクティブ・コーチ」「プロフェショナル・キャリア・カウンセラー」の資格を有していました。

1日目と5日目は同じ講師の方でした。初日と最終日が同じ先生と言うのはとてもよかったのです。

講義の前に、なぜこのセミナーを受講しに来た経緯を話しました。1時間ぐらいは話したでしょうか。臨床を離れて仕事が変わったことをぶちまけたと言うのが本音ですが、先生は、今の心の状態を長々と「傾聴」してくれました。

「傾聴」と言うのがコーチングの基本なのです。聴いてもらうだけで(「聞く」ではありません)心がすっきりするのです。言葉を引き出すことが本当に上手なのです。先生は人が好きなのだそうです。人との心の関わりで仕事ができることが幸せなのだそうです。

マンツーマンと言うことで、講義の合間、合間に仕事に関わる経験談を交えて会話ができるので、振り返りができ、心の整理がついてくるのです。5日間ともですが、セミナーを受講したと言うより、個人カウンセリングを受けていたと言った方が良いのかも知れません。そう考えると、安い講義料だったのだと思います。

「○○さんは、すごく真面目に、一生懸命、患者さんやご家族のためにお仕事をされていますね。素晴らしいと思います。でも、患者さんやご家族のためと思って、正論を言ってしまいますよね。人は正論をぶつけられるのが一番嫌なのです。

逃げ道が無くなりますからね。相手の方も真面目に取り組んでいることですから、しっかりそれを承認して受け入れる。それをしっかりと理解して、相手の立場に立って話を進めて行くことが大事なのです。

それから、一生懸命やり過ぎることで、他の職種の方のテリトリーを犯してはいませんか?多分、○○さんの持っている知識の方が正しくて患者さんにとっては良いことなのでしょう。

しかし、あまりにも踏み込んでしまうとテリトリーを侵された、プライドを傷つけられたと他の職種の方が感じてしまうこともあるでしょう。

そうすると、○○さん自体を受け入れてもらえなくなってしまいます。そうすると、本当に患者さんのためにと思っていたこと自体ができなくなってしまうのです。患者さんが大事と言うのは大前提ですが、患者さんを診ると言うチームの土台をしっかりと作らないといけないのです。

○○さんだけ飛び出しても、結局は、出た釘は打たれることになるのです。」と、2回しかお会いしていない講師の方から、こんなお話しをされるのです。全く医療には関係ない方なのに…。

コーチングは、全く知らない仕事であっても人の求めることを導き出し、その目指す方向に向けてくれるのです。本当にコーチングって素晴らしい!!!

最終日の講義で、自分の駄目さ加減と、どこをまず直せばよいのかを知ることになります。それは最終段階の「叱り」の講義でした。

「叱り」は「怒る」のではなく、①相手を否定しない、②事実について叱る、③相手を信じて叱ることであり、「叱り」は「承認」の一つであり、叱ることは激励の一つであると教わりました。「ダメだ」と言う言葉を使った「怒る」では、信頼関係もなくなると言うことでした。

部下の仕事がうまく進まないことに対する上司の対応事例のロールプレイで行ったのです。「ダメだ」と「怒る」事例と、「繰り返し」「承認」「肯定質問」「オープンクエスチョン」「未来質問」「言い替え」「I(アイ)メッセージ」と言う「コーチング手法」を取り入れた「叱り」の事例を行いました(事例はコピー禁止なので公開できないのが残念です)。

コーチング手法を取り入れた事例を行った直後に、「すごい!」と言う言葉と共に笑った私の顔を見て、先生は、「1日目の○○さんの言葉にはとても熱意は感じました。

しかし、とてもトゲトゲしい感じでしたね。でも、今の笑顔はとてもすっきりした良い笑顔ですね。今までの○○さん部下への指導は「叱り」ではなく、「怒る」だったのですよね。病院長は、そんな○○さんに変わって欲しいと思ってコーチングを勧めたのだと思いますよ。」と全く図星なことを言われ、全てを見透かされていました。

本当に先生はすごい方でした。「人が好きだからこの仕事をしています。講師料は微々たるものですから、ボランティアと思って活動しています。今回も、○○さんと言う人と人間関係が作れたことも、私の財産です。今は、心理カウンセラーの勉強をしています。もっと、たくさんの人を幸せにする手助けをしたいと思っています。」と言われました。

本当に、人との出会いは大切で、その一つひとつを大事にしていけば人間関係も上手く作っていけると言うことを学んだ気がしました。
(コーチング手法で使うスキル(単語)を多く記載しました。ここでは一つひとつを説明できませんので、ご興味を持って頂いた方は、「コーチング」とネット検索してみてくださいね。)

 

第7回 コーチングセミナー経験談②

コーチングセミナーを受講した時の体験談の2回目です。2日目と3日目の講師は73歳の方でした。

とても勉強家で、朝から新聞にしっかりと目を通しており、新しいニュースを話題にしてコミュニケーションを取られてきます。

ビジネス雑誌を常に持ち歩き、世の中の情勢をしっかりと身につけながら、今、必要な人材はどの様な人間なのかを常に模索していることをお話ししてきます。

本当に73歳なのかと思うほどパワフルで、私はタジタジでありました。

日本で初めて病院にコーチングを導入した亀田総合病院のことも良く知っており、「亀田総合病院のコーチングは素晴らしいので、是非、○○さんの病院でもコーチングを積極的に導入して欲しいと思います。

病院長が全職員的に導入する気持ちがあるのであれば、亀田総合病院と連絡を取ってもらって、勉強しに行って欲しいです。このセミナーが終了したら亀田総合病院と連絡を取られてみては如何ですか?コーチングの実際を知られることは大事だと思いますよ」と言われました。

過日、亀田総合病院の臨床工学技士の高倉さんとコンタクトを取り、亀田総合病院のコーチングの現状について調査させて頂き、病院長に報告すると言う業務にも発展しました。

先生は色々な話のなかで、たくさんの質問をしてきます。たくさんの質問ができると言うことは幅広い知識を持っていて、たくさんの引き出しを持っていると言うことなのです。

私がその質問に答えると、「今日はとても良いことが聴けました。」「今日はとても良い勉強になりました。」「それは素晴らしいですねー。」「今日、家に帰って家族に話しますよ。」「今度、それを試してみなすね。」と自然に言葉が出てくるのです。話をしている私も、とても気持ちが良くなります。こんな会話ができるようになれたらと思いました。

先生は、コーチング手法が本当に自然にできるのです。これは教わったものだけではなく、元々持っている先生の天性によるものなのかもしれませんし、73年の積み重ねによる磨かれた燻銀の心なのかも知れません。そして、たくさんの講師をされることで、たくさんの方と会い、話すことで、益々磨きがかかってくるのでしょう。

先生から、「○○さんと話をしていると、たくさんの引き出しを持っていることが分かります。日常的なことを例題に出しながらプレゼンテーションができる力を持っているので、しっかりとコーチングの研修が行えると思います。
コーチングはどの様な職種にも応用できますが、やはり27年と言う病院の状況を良く知っている○○さんが、自分の病院に合わせたコーチングを行う方がより効果的です。ぜひ、この機会に積極的に導入を勧めて下さい。」と言われました。

更に、是非、独立してコーチングを広める仕事をしてください。コーチングの講師には定年はありませんから体が動くまでできます。

人との出会いを大切にできるこの仕事はとても幸せな仕事です。と言われて、ここまでおだてられると(多分、先生は真面目に言っておられて、おだてていないのだと思います。おだてて仕事をさせるのはコーチングではありませんから。

相手に無限の可能性があると信じて、信頼して感じたままを率直に話すことで心と心が通じた話ができるのがコーチング手法なのです。人間力を磨かないとできない手法です)ついつい、独立を考えてしまう私なのでした。

人間力と言う言葉を使いましたが、何事を行うにも人間力が必要なのです。コーチング手法を身につけることも大事ですが、常に自分を磨くこと、人間力をアップすることが人間関係の構築に繋がるのだと思います。
さて、最終日は、きちんと修了式が行われました。修了証は受講料に含まれていますが、認定証の発行には別途料金がかかりますが、受講の時に提出した成果物や受講の評価で認定できるかを評価されます。
修了式では、修了証2枚と認定証の2枚を渡され、別途料金で依頼していた「coach」のバッジを頂きました。

色々な思いもあり受講したセミナーでしたし、多くのお話しを聴いて頂きかつ、多くの学びを得たことに思いが込み上げてきて、若干、涙が出てきました。

「coachバッジは、私と同じですから、私と同じ活動ができると言う証明です。たくさんの人たちを幸せにしてください。」と言われ、その重さを感じながら、帰り道の居酒屋で一人祝杯を挙げたのでした。

 

第8回 コーチングセミナー経験談③

前回の2回は、コーチング研修インストラクターの資格を取るためセミナーの体験談をお話ししましたが、今回は、職場関連で参加したコーチングセミナーの体験談についてお話ししましょう。

コーチング研修インストラクターのセミナーとは異なり、こちらはコーチングを教わって職場で活かす2日間の研修でした。皆さんが初めて参加するのであれば、コーチングを体験する意味で、ロールプレイをたくさんこなして体験していく、こちらのセミナーの受講をお勧めします。

今回は職場関連のセミナーであったので無料でした。復習のつもりで参加しましたが、基本は同じなのですが、大変面白く、先生が変わるとここまで違う教え方があるのかと驚くばかりで感動しました。

ロールプレイの連続で、頭が常に活性化している状態で、熱くなっていました。家に帰ったあとも簡単には冷めてくれず、普段いかに脳を使わずに会話をしていたかが良く分かりました。

前回のセミナーでは使われなかった言葉が「ストローク」でした。このストロークと言うものが非常大事だと思いましたので説明しましょう。

ストロークとは、コーチングで言う「承認」の方法のひとつになります。ストロークには「ふれあう」「接触する」と言う意味があり、「相互関係において、相手の存在や価値を認めるための働きかけ」をすることが人間関係を構築する上で大切であると言うことです。

ストロークは「心の栄養剤」であり、人が生きていく為に必要不可欠なもの、そして、情緒の安定や心身の成長はストロークによってもたらされるのです。

良好なストロークのやりとりは対人関係を促進させてくれます。他者から贈られる的確なストロークは人の動機づけ、目標観を形成する効果をもたらしてくれるのです。

ストロークがないと不安→不満→不平になることや、意欲が低下する、否定的な考えになる、行動が鈍くなる、注意が欲しくて問題を起こすなど心の問題を生じてしまいます。

①肯定的ストローク:ほめる・感謝する・挨拶する・笑顔を送る・話を聞く・アイコンタクトなど
②否定的ストローク:叱る・注意する・反対する・警告する・差し戻す・やり直させるなど
③ディスカウント:無視する・無反応・比較してけなす・情報を与えない・仕事を干すなど

ディスカウントは人をおとしめる、人格を否定するものであるため行ってはいけませんが、否定的ストロークは端的に起きた事実について行うことを心がけることで、フィードバックや修正を求めるなど前向きに進めることに繋がっていきます。

皆さんも、この「ストローク」を覚えて頂くだけで、コミュニケーション能力が一気にアップするのではないでしょうか。

2日間のコーチングセミナーは、ロールプレイの連続で、自己紹介、握手の繰り返しと言葉を発することの繰り返しでした。座学ではない手法の講義は体験学習として一番良い方法ですが(シミュレーション教育に似ているかな?)、講師のファシリテーターとしての役割が重要なのが良く分かりました。ファシリテーターは、やはりカリスマ性があり、柔らかい表情で、常に教えるのではなく、問いかけることから始めなければいけないのです。

人間力を持っているってことなのでしょうね。ロールプレイの後は、必ず振り返りをして自分の良い点を上げてもらい、自分を誉めてあげること、そして、改善点を上げることが大切です。

ついつい、反省点ばかりに気持ちが行ってしまうので、誉めることから始めることが大事なのです。

満点法による自己採点や他者採点をすることも効果的な手法なのだなと思いました。絶対に必要なのは、最後には必ず拍手をすることです。ロールプレイの連続で息つく暇を与えず、私のような人と話すのが苦手と言うタイプでも、そんなことは言っている場合ではない状況にさせられ、否応なく話さなければならないようにする手法はとても有効なセミナーの方法なのだと感じました。

コーチングの内容は、前回のコーチングセミナーと大きな違いはありませんでしたが、理論的な部分を省き、自己体験によって職場に生かすセミナーであり、コーチングは面白い。早く使ってみたい。

部下をコーチングで成長させたいと言う願望を強く感じさせてくれるセミナーでした。

私は、今までに院内教育も積極的に行ってきましたし、講演もしてきましたが、人を掴む話し方をしたいなと常々思ってきました。これからの教育活動を進める上で、ファシリテーターの手法を身につけることは目標です。

今回の講師の方とお話ができる機会も作れ、メール等でアドバイスを頂けるようになりました。前回のコーチングセミナーの講師の方は、私にとっては恩師と言う感覚でしょうか。そして、今回の講師の方は師匠であります。

師匠から、講演の終わりには「ピークエンド」を迎えられるイメージを持って講義を進めていくことが大事だと教わりました。「ピークエンド」とは、講義の終わりに、会場が一体感を持ち、感動を覚えるような状態のことだそうです。

こんな講義がいつかできるようになりたいと願いながら努力を続けたいと思いました。

ちょうど、明日、講演があります。「ピークエンド」をイメージしながら、本日、飛行機で現地に向かおうと思います。

やっぱり、人との出会いはとても大切ってことですね。

 

第9回 コーチングの資格を取ってからの行動と未来像

「コーチング研修インストラクター」の資格を取った後、報告書と共に、NPO法人で作った名刺を持参して病院長に報告に行きました。

病院長の反応ですが、あくまでも私の感覚ですが、私の表情が柔らかく変わったのでしょう。私を見て、いきなり優しい顔で、「院内でコーチングの研修をしてみないか」と話してきました。びっくりしました。なぜかと言えば、セミナーを受講してプランを立てた今後の目標が、「院内でのコーチング研修」だったからです。

コーチングの手法の中で「ビジョンコーチング」と言うのがあります。順序立てて、段取り良くコーチが質問をしていく中で、目標を明確化して意思決定そうする方法です。それを「GROWモデル」と言います。

①G:Goal⇒目標を明確化します。
何をしたいのかを引き出し、その目標を長期的、中期的、短期的に明確化していきます。無理して長期的な目標を立てるのは難しければ目の前の短期的な目標を明確化することを大事にします。

②R:Reality⇒現状を把握します。
なぜその目標を立てるのか、現状にどのような問題点があるのか、どの様なことが課題となるのか、現在の行動状況を把握していきます。

③R:Resource⇒使える資源は何かを考えます。
目標を達成するために使える資源(人、物、金、時間、情報など)を導き出していきます。

④O:Option⇒選択肢を考えます。
その目標を達成するためにはどのような方法があるかを導き出し、その中でどの方法を取るのが良いのか、時に、上手くいかなかった場合には違う方法に変えていくのかと言う選択肢を増やしていきます。

⑤W:Will⇒意思を確認します。
そして、最善の方法を検討して、どのような手段で、いつまでにその目標を達成するかを自らの言葉で意志を確認し、自らの責任として進んでいくことを宣言させます。

セミナーの中で、講師の方と私の目標をGROWモデルを使って立てたのです。

短期的な目標は、「院内にコーチング手法を導入すること」です。

私の長期的な目標としては、「院内にコーチング手法を取り入れることで職員の活性化を図り、やりがいのある仕事にしていくこと、そして離職率を下げること。この効果として、患者さんやご家族に安心・安全・適正な医療を提供することで顧客満足度を上げること。

更には顧客の増加により経営が健全化していくこと」と言う大きな目標を立てました。その方法は、「院内でコーチング研修を行うこと」でした。資源としては、コーチングを理解してくれる人が重要人物として必要であり、これはもちろん病院長になります。

病院長を動かすことで院内(多職種)にコーチングの導入を進めていくことができませんから、病院長を説得することが第一になります。

そして、コーチング研修の後も協力しくれる仲間を増やすことが重要であるため、私の考えを理解してもらえる思われる数名の人物を上げました。そして、来年度中に開催すると言う意志決定と宣言をしたのでした。
こんな経緯の中で、病院長からコーチング研修をしてみたらと言う言葉には本当にびっくりで、あっという間にResourceまでたどり着いてしまったのです。

そして、仲間を増やさないとねと言う言葉もあり、考えていた人物を数名頭に浮かべたのでした。いつからと言うことについては、今年の秋ぐらいからと言う少しあやふやな回答に留まりましたが、企画を立てきますと言って、部屋を後にしました。

今は、コーチング研修インストラクターで学んだ理論と、コーチングセミナーで学んだたくさんのロールプレイを含めた私独自の資料作りを進めています。

臨床工学技士と言う立場はどこに行ってしまったのかと言う疑問もありますが、患者さんやご家族の満足度を上げることが私の兼ねてからの目標と言うか常に心に持っていたことなので、私がやるべき仕事の一つの中で、コーチングを院内に導入すると言うことが大きな仕事なのだと考えられるようになったのです。

そして、この様な行動を取って行けば、結果的に、臨床工学技士の知識、技術も向上し、個々の満足度の高い目標を持った仕事が、チーム医療を支えることになると感じたのです。

 

第10回 「コーチング研修インストラクター」を取得してみて思うこと

「コーチング研修インストラクター取得までの道のり」と言う題で、9回のコラムを書かせて頂きました。

認定資格を取れたから今後どうしようと関変える前に、全く未知の世界であった「コーチング」について学ぶことで、まずは自らを振り返ることができるようになったと言うことが一番の収穫ではないかと思います。今回のコラムも、更なる振り返りができたことは有意義な機会でありました。

4月から、色々な方とお話しする機会がありましたが、私と同世代の方々は若い人たちの指導・育成に悩みを持ち、過去の成功体験から指導すると言う「根性論」ではなかなか考えているようには指導・育成が進んでいかない現実に直面されているようでした。

「草食男子」などと言う言葉が流行った時期もありますが、今の若い人達は、なにか掴みどころのなく、何かを言ってもはぐらかされている様な感覚を持ちます。

これは、満足度のレベルが低いと言うのが私の感覚で、ちょっとしたことで満足し、更なる興味が湧かないのだと思います。

私は部下に「興味を持ちなさい。」と何度も言ってきましたが、若い人たちは興味が湧かないのです。与えられた物だけをこなすという教育を受けてきたからでしょうか。

娘が使っていた教科書を思いだすと、イラストや写真が多く使用され、さらにカラーであると言う、羨ましい教科書でした。「ゆとり教育」うんぬんと言うことはしませんが、与えられるものがすでに揃っている状態で教育が行われます。自らが興味を持って取り組むと言う姿勢に欠けるのは、小学校からの教育が私たちの時代とは違うからなのではと感じます。

インターネット社会も、興味を持たない一要因ではないかと感じます。調べたいことがあれば、キーボードを叩けば答えが導き出せると言うとても良い時代ではあります。見たい映画がどこの映画館で何時から行われ、その映画をリアルタイムに予約もできる。こんな便利な使用方法はありません。

しかし、自ら探した本や辞書から学ぶ方法の知らない、基礎知識、理論を持っていない人間が、知識を身につけるために使用するインターネットは、薄っぺらな知識が一瞬、理解できるだけで、身にはならないのです。
インターネットは興味を生むきっかけを作る情報媒体であり、あくまでも情報源なので。その興味から知識を自らの身に植え込むには、様々な媒体から勉学し、自らの体と目と耳を使って体験し、脳刺激をすることで可能になるのだと思います。

先日、セミナーで講演をしましたが、40名の参加者の中で私の本を知っている人はいませんでした。18000円と言う高額なセミナー料金を払ってくるのは、何らかの問題意識があり、知識を身につけたいと言う気持ちの表れであることは良いことだと思います。

しかし、セミナーの内容に関連する本を読んだことはありますかと質問すると、下を向くばかりです。知識を身につけるということは、教わる(教えてくれる)という前提が先にあるのでしょう。そのため、自らがその問題に取り組んでいこうと言う意識に欠けているのでしょう。

セミナーとは、本に載っている中の重要なことをまとめて代わりに読んでくれる人がいる。参加者は耳からの情報で知識を身に付けようとするのでしょう。

この方法を否定はしませんが、復習をしない限り、聞いたことの半分は家に帰るまでに忘れてしまうでしょう。そして、次の日に残っている知識は、1/10程度ではないでしょうか。

そのため、家に帰ってから復習できるようにと、私はテキストの最後に活字による説明を入れています。さて、何人の方が読んでくれるのでしょうか?

私が行った院内で行っている講義を2年間で4回聞いている部下に基本的な質問をしたところ、全く答えられませんでした。これが現実なのです。

これもセミナーの一場面ですが、人工呼吸器の回路は臨床工学技士が組み立ててくれると手を上げた看護師さんが半分以上いました。

では、皆さんは自分で人工呼吸器の回路を組み立てられますかと質問したところ、誰ひとり手を上げませんでした。

では、もし、あなたのお子さんが呼吸不全を起こして入院し人工呼吸器を装着したとしましょう。あなたが親だったら、自分の子供が、人工呼吸器の回路が組み立てられる看護師さんと組み立てられない看護師さんがいたら、どちらに看護師さんに看て欲しいと思いますか、と質問したところ、一瞬、参加者の顔が青ざめたように見えました。

そうなのです。自分の立場でしか物事を考えていないのです。患者さんやご家族の立場に立って物事を考えると必然的に身につけておかなければいけない知識が分かるはずなのです。呼吸器回路の知らない看護師さんは、緊急的な人工呼吸器のトラブルに対応することはできないのです。

臨床工学技士の業務も多様化して、分業化が進んでいます。

一般的な業務ができるジェネラリストを育てることが難しい時代です。分業化が進んでいるからと言って、スペシャリストを目指そうという人も少ないのです。

こんな時代の中で、安全、安心、適正な医療、さらには最良の医療を提供するためには、指導・育成の方法を変えていかなければならないのです。

相手を変えることはできません。なので、教える側が変わらなければいけません。コーチングと言う手法を用いて、小さな夢でもよいので、それを引き出し、それを実現するプロセスを一緒に考え、自らの言葉でいつまでに達成すると言う宣言をさせることの繰り返しで、大きな夢を持つことに繋がることでしょう。一歩一歩、先に進むことができるでしょう。

コーチングは、「怒る」ことはしませんので優しい方法の様に感じますが、実はとても厳しい方法なのです。自らが宣言すると言うことは、自らに責任を持つと言うことで、他人に責任を押し付けられない手法なのです。逃げることもできません。

講義であっても、コーチング(気づきを感じる)を用いた指導する手法を身につける必要があるでしょう。これを、ファシリテーターと呼ぶのが良いのかと思いますが、これも教える側が変わる必要があると言うことです。

私自身、知識を少し身に付けただけで、身に付いたと言える状況にはありませんが、この与えられた時間を無駄にせず、患者さんやご家族が満足する医療を受けられるように、後進の指導・育成に力を注ぐことが私の使命であると再確認できたコラムであったと思います。

 

第11回(最終回) 皆さんに伝えたいことープロフェッショナルへの道ー

私の願いは、医療チーム力をアップして、その力を最大限に発揮して、更なる最良の医療を患者さんに提供することです。そこには、臨床工学技士としてプロフェッショナルを目指すことが重要なのだと思っています。
コーチングと言う手法を覚えることで、更なるその気持ちを大きくしました。

皆さんに、「プロフェッショナル」に対する私の思いを綴り、この連載を締めたいと思います。

 

プロフェッショナルへの道

我々が目指すのはプロフェッショナルである。

プロフェッショナルとは一見かっこよい響きであるが、貪欲でかっこ悪いほどボロボロになりながら目指さなければなれないのである。

この言葉を口にできる人間になるには並大抵の努力ではなれない。

きつく、厳しい道のりがある。

崖や谷を必死に登り降りしなければが、その目標にはたどり着かない。

血と汗と涙が必然的につきまとう。

プロフェッショナルとは、達成する目標は常に通過点であり、一つ山を越えると、また大きな谷が控えている。

その谷を降り立ったとしても、また大きな山が控える。

プロフェッショナルとは、果てしない道のりなのである。

プロフェッショナルと言う、その道を進むと決めた心に、悩み苦しみながらも、後ろを振り向かずに前だけを向いて、突き進むだけなのである。

しかし、これをさりげなく、表には見せないでかっこよくこなすのも、ひとつのプロフェッショナルなのかもしれない。

プロフェッショナルと言う言葉を理解できず、中途半端な気持ちの人間はこの医療の現場で働く資格はない。

命を預かる仕事である以上、自分にゆるぎない気持ちをみなぎらせ、目標を達成するために邁進する心を持たなければいけないのである。

「患者さんに失礼のない医療」これが、私の信念である。

常に、患者さんや家族と真正面から向き合い、自分との戦いに挑むのである。

「患者さんに失礼なことはするな!」こんな言葉を何度言っただろう。

部下には、この言葉だけを伝えたい。

プロフェッショナルにこだわる威信にかけて、「患者さんに失礼のない医療」を目指すことが私に課せられた使命なのである。

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